スタッフ
監督:フィリップ・ボーソス
製作:ピーター・オブライアン
脚本:ジョン・ハンター
撮影:フランク・タイデイ
音楽:マイケル・コンウェイ・ベイカー
キャスト
マイナー / リチャード・ファーンズワース
ケイト / ジャッキー・バロウズ
ダン / ウェイン・ロブソン
シーヴィー / ゲイリー・ライネック
パッド / ケン・ポーグ
ルイス / デヴィッド・ピーターソン
ジェニー / サマンサ・ランゲヴィン
フェニ─軍曹 / テモシー・ウェッバー
シーヴェイ / ゲーリー・ラインケ
日本公開: 1986年
製作国: カナダ マーキュリー・ピクチャース作品
配給: ヘラルド・エース
あらすじとコメント
老境の男性。前回の「ウンベルトD」(1951)の主役は素人の大学教授ながら見事なる存在感を発揮していた。今回の主演俳優も長年スタントマンとして生きてきて初めての主役。いぶし銀の存在感が見事なので紹介する。
アメリカ、ワシントン
決して人を傷付けないことから『紳士強盗』の異名を取っていた強盗マイナー(リチャード・ファーンズワース)は、33年の刑期を終え釈放された。時は1901年のことで20世紀に丁度入った時期である。
社会の激変ぶりに唖然としつつ、妹を頼ってやって来た。社会復帰として牡蛎拾いの職に付くが気高いプライドが邪魔をする。そんな時、新しい娯楽である活動写真の「大列車強盗」を見て驚天動地。
思わず昔の気持ちが甦ってしまい・・・
老強盗の境地と心意気を描く異色西部劇。
浦島太郎の状況で社会に戻る元強盗。銃で脅すが絶対に人を傷付けないという矜持がある。強盗ながら気骨があるしプライドが高い男。
映画を見たことから列車強盗を試みるが失敗。追われる身となり、隣国カナダまで逃げ今度はそこで腹の座った盟友が出来る。ならば二人で列車強盗をしようと。
そして見事成功し、カナダでの史上初の列車強盗犯となる。しかし、そのことからアメリカからの追手である探偵社の人間と現地の北西騎馬警官隊の双方から追われることとなり、更に奥地へ。逃げ伸びた先で、町を牛耳る旧友の手助けで身を潜める主人公。心優しき女性とも知り合い関係を持っていくが、追手が近付いたと知ると女を捨て、また逃げるという展開。
実在した強盗で、「手を上げろ」という台詞を使った史上初の強盗としても名高い。その男の晩年を静かに描く作品で、紳士強盗と呼ばれたぐらいなので派手な銃撃戦などは一切出てこない。
しかもメインの舞台がカナダのブリティシュ・コロンビア州なので極北感が漂い、通常の西部劇の印象はまったくない。
逆光を上手く取り込んだ美しいカメラワークで20世紀初頭のリアルさを際立たせ、誇り高い孤高老人の姿を淡々と追っていく。
何といっても初主役を張ったリチャード・ファーンズワースの存在感が尋常でない。少年時代からロデオで賞金を稼ぎ、「マルコ・ポーロの冒険」(1937)でゲーリー・クーパーのスタントマンで映画デビューして以降、多くの有名スターのスタントマンを続けてきた。
当然、今の全スタッフがエンドロールで延々と流れる時代とは違いタイトルに名前も出たことがなく、何と初台詞はジョン・ウェイン主演の「11人のカウボーイ」(1971)という超遅咲き俳優。そんな命懸けのスタントで陰に徹して生きてきた男の初主演が本作である。
それだけで鳥肌が立った。本当に命懸けの裏方としてプライドを持ち、生き抜いてきたからオーラが違う。画面を通し、本当に気高く男の生き様を醸し続け、それが一切途切れることはない。監督の撮り方もあろうが、どの場面どのカットでも異様なほど立振る舞いに生き様が漂う。
地味な内容だしリアルな作劇で劇的に盛り上がることもない。しかし、主役のファーンズワースを見るだけでも、背格好や後ろ姿などから有名スターの誰それのスタントマンを演じてきたが想像できる。
結果、往年の西部劇やアクション系『映画』がどのように歩んできたかを嗅ぎ取れて、万感迫るものがあった。