スタッフ
監督:山根成之
製作:樋口清
脚本:ジェームス三木、石森史郎
撮影:坂本典隆
音楽:来生たかお
キャスト
女 / 秋吉久美子
少年 / 佐藤佑介
少年の父親 / 岡田英次
女中とよ / 南美江
駐在加治木 / 佐野浅夫
駐在の娘マリ / 神保美喜
真田刑事 / 財津一郎
店員 / 原田美枝子
新子 / 夏純子
時子 / 宗方奈美
製作国: 日本 松竹大船
配給: 松竹
あらすじとコメント
学生の夏休みも終わりの時期。なので男子高校生のひと夏を描いた作品を紹介してみる。小品ながらも、隠れたる名編。
香川県 今治
小さな港町に住む高校生の少年(佐藤佑介)は最後の夏休みなのに卒業後の進路を決められず悶々と過ごす日々。その上、周囲は誰もが顔見知りなので閉塞感もあり、小さな船で孤島の入り江に行ってばかり。唯一自分だけの時間を過ごせる場所だから。
ある昼下がり、廃船の影で倒れている若い女(秋吉久美子)を見つけた。近付くと薄っすらと目を開けた。「何だ、生きとるのか」と言うと立ち去った。直後、被っていた麦わら帽子に水を汲んで戻り、顔にかける。意識を取り戻した彼女は小さく「ありがと」と呟いた。
ぶっきら棒に「歩けるか」と問いかけ、そのまま実家の旅館に連れ帰って・・・
純朴高校生と訳アリ女子大生の関係を描く青春映画の逸品。
周囲から「ボン」と呼ばれる男子高生。母は他界し、無口な父親はあちらこちらに女性がいる渋い中年男。旅館は口うるさく文句ばかり言う仲居のオバサン一人で切り盛りしている。
常に短パン一丁で歩き、服ぐらい着ろと周囲から言われても知らぬ顔。彼を慕う駐在の一人娘も気に掛けてくるが、年頃の男の子らしく嫌味で切り返す。父親の煙草をくすねては慣れた手つきで火をつける。
そんな二枚目ながら、いかにも世間知らずの田舎の少年が知り合うのは疲労困憊の美人女子大生。
当然、初めて見る少しだけ年上の独特のオーラを放つ相手にときめき、複雑な心情に陥っていく。
だが彼女は学生紛争の内ゲバで総括リンチに加担した罪で手配され逃亡中の身。その事実を知らない少年は旅館の住込み女中として雇うと言いだす。
周囲の大人たちを巻き込み、若くして厭世観を漂わす女子大生とひと夏を過ごしていく少年。
内容としては学生運動という時代性はあるものの実に瑞々しく不器用さでは双璧の主人公と女子大生と今ではいなくなった、個性的ではあるが悪意のない『大人』たちの存在が主役二人を包んだり、一定の距離を保ちつつ見守ろうとしていく。
ただし駐在という警官がいるし県警から刑事たちも足取り捜査でやってくるというサスペンスもあるが、それだって悪役ではなく、それぞれの立場として当然。
ありがとうを意味する方言「だんだん」や、ヒロインが落書きする「パーマネントブルー8月のいろ」に少年が付け足す言葉など、細かい設定の積み重ねが胸を熱くさせてきて、徐々に感動が渦巻いてくる。
これぞまさに不器用な青春。そういったすべてが相まって見事なるアンサンブルを奏で、美しい瀬戸内海の風景の中で痛いほど切ない青春ドラマが進行していく。
わかりやすく心に沁みてくる来生たかおの音楽、演者たちの確実な演技なども加味され、もどかしくてぎこちない純情一直線なドラマが際立っていく。
主役の佐藤佑介はモデル出身で一時期青春映画に多用されたし、秋吉久美子も若いながら不思議な魅力を放つ女優として認知されていた。
しかし、何といっても本作成功のカギは山根成之監督の力量によるものと断言できる。特にアイドル映画の雄で、郷ひろみ全盛期の作品の多くを手掛け、どれもが単なるアイドル映画以上の出来で恐れ入った。個人的にはもっと再評価されなくてはいけない監督だと確信している。
ただ、残念なのは山根監督は映画からTVに回り55歳で他界し、主役の佐藤佑介も1998年に引退し、その後ひっそりと逝去している。それでも作品は素晴らしいまま残り、いつまでも生き続ける。
トータルのバランスを考えれば秀作とは呼べないが、それでも、こちらの心を未だに放さないのだ。
紹介するにあたり画質の悪いビデオ録画で見直したが、切なさに感極まった。廃れた表現ながら、これぞ『珠玉の名編』と断じてしまう青春映画。