余談雑談 2024年11月9日

そろそろカウントダウン。

自分にとって地元で最後の『食堂』。そこが11月末で閉店する。申し訳程度のカウンターには席が四つ。他に四人掛けテーブルが三卓。オバサンが独りで切り盛りしてきた店。

本当に、これぞ食堂という態でメニューも豊富であった。ただし、味はプロというより家庭の母の味程度なので好き嫌いは分かれそうだ。それでもこの手の店は地元では本当にラストの一軒であり、足繁くではないが定期的に通った。

オバサンも自分同様、地元出身で死ぬまで地元を出ないタイプ。だからか妙にウマが合った。自分よりも若干年上で、どこそこに何があったとか、あの近くの公園で遊んだとか子供時代の共通認識があり、それが信用とは言わないが、同じ時代に同じ場所で過ごしてきたという安心感が共有できたからだろうか。

自分同様、地元の栄枯衰退を食堂を通して見てきて、現在の状況はまったく絶望を感じると嘆き合った。

当然、超有名観光地であるので、TV等が各社取材に来るが全部断っていると嬉しいことを仰る。それほど、内外を問わず人間が嫌いになりざるを得ないほど変貌したと。

それでも、通りすがりの客が入って来て、今の価値観で接してくる。驚いたのは、自分だけがいた口開け直後。近隣諸国のどこかの男性ひとり客が来店。にこやかに入店してきて、店内を見回した。壁に手書きのメニューがびっしり貼ってあるが、パウチ・メニューや英語表記などない店。

その男性客は一言も発さず、ゼスチャーもせず不敵な笑みを浮かべた。オバサンも自分もキョトンとした。もしかして踵を返して退店するのかも。

そうしたら、さにあらず。壁一面のメニューをスマホで写し始めた。オバサンも自分もキョトンとしていると一通り画面越しに映し終わると、何とオバサンを呼び付け、画面を見せた。

流石、時代である。画像翻訳機能で、自国語から更に日本語に変換してオバサンに指示した。「サバ塩定食」。

それには驚いた。印字メニューでなくバランスの悪い手書きまで翻訳できる時代。しかもチョイスはサバ塩。

以降もテーブル席に座り、ゆっくりと壁のメニューを写しながら自国語に翻訳している。その観光客の地元の店とのメニューの差異でも見比べて楽しんでいるかな。

そこは独居老婆たちの溜まり場でもあり、一見客がその光景に一瞬たじろぐのも面白い。しかも長居するので、客にたどたどしい態でお茶を出したりするので、更に客が驚く。

ワンオペの店なので老婆たちが手伝わないと時間がかかり、水さえでないし15分以上も待たされる。ランチタイムの飛び込み客は焦るだろう。

考えれば仕方ないが、先客数名が全員違うメニューを頼んでいれば、一から作るから後から来た客がイライラしだす光景を何度も見てきた。

なのでスマホを見るだけで店側から声をかけられるの待つ初回客など、水も出てこないからキョロキョロしだすので、自分が水を出しながら言ったことがある。「ここは独りの切り盛りなんで半分セルフですぜ」と。

ということは「下げ膳」も自分でしろよと、こちらが先に帰るときは皿等を全部カウンターの邪魔にならないところに片付け、その上布きんでテーブルまで拭いて退店する。当然、イヤミが前提の行為ですがね。まあ、独居老婆がいるときに下げ膳をするとこちらを見て常連さんなのねと笑うから楽しいけど。

それも今月でお仕舞い。父の代から手伝いだして55年も頑張ったから、しょうがないわよねと寂しそうに仰った。なるべく考えないようにしてるのよ、だって泣きそうになるからさ。

でもですぜ、生存確認だから良いのよとオバチャンが言っていたバアサンたちは来月からどうするんだろう。ほんの数名だろうが、近隣で集会所難民が増えるんだろうな。

秋がなく、いきなり冷え込む日々。でも、まだ暖かい日が戻るんだって。

人生もそうなのかな。

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