スタッフ
監督:ジュリアン・デュヴィヴィエ
製作:アンリ・デューチュメイステル
脚本:ジュリアン・デュヴィヴィエ
撮影:ロベール・ルフェーヴル
音楽:ジョルジュ・ヴァン・パリス
キャスト
モリジウス / ダニエル・ジュラン
アンデルガスト検事 / シャルル・ヴァネル
アンナ / エレオノーラ・ロッシ・ドラゴ
ヴァレム / アントン・ウォルブルック
エリザベット / マドレーヌ・ロバンソン
アンデルガスト少年 / ジャック・シャバッソール
アンデルガストの祖母 / ベルテ・ボービィ
モリジウスの父親 / ドニ・ディネス
ボビケ夫人 / パオラ・ポルポーニ
日本公開: 1955年
製作国: イタリア フランコ・ロンドン・フィルム作品
配給: 東和
あらすじとコメント
前回の「居酒屋」(1956)はフランス映画の素晴らしいが嫌な思いに陥らせる作品でもあった。今回も同様に、人間の『業』が数奇な運命に翻弄される話にする。
スイス、ベルン
厳格な検事である父(シャルル・ヴァネル)を持つ高校生で16歳になるアンデルガスト(ジャック・シャバッソール)はとても正義感の強い少年である。
そんな彼は、ある日から謎の老人に付き纏われるようになった。直接接触を図られることはなかったが、妙に気持ち悪い。恐怖感を抱くが何も出来ないし父にも言えなかった。
そして数日後、付き纏い老人は彼の父親に会い、何かの書面を手渡した。困惑する父親。それは18年前に妻殺しで無期懲役を勝ち取り、現在も収監中のモリジウス(ダニエル・ジュラン)の父からの再審請求の書類だった・・・
複雑な感情が交差する重苦しい裁判劇。
義侠心から自らが犯人と嘘までついて仲間を守ろうとする真面目な少年。彼の父親は家族内で君臨する検事様。ある意味で上流階級の勝者側である。
少年は珍しく困惑した表情を見せた父親に興味をそそられ、泥沼的恋愛模様から殺人事件に発展した18年も前の事件の真相を探ろうと思い立ってしまう。
何故なら当初は付き纏い老人として恐怖を覚えた囚人の父親と恐る恐る話をしてみると嘘を付いているようには見えなかったから。
そこで正義心に火がついてしまう。当時の事件とは、23歳で大学教授になったエリート青年が15歳以上も年の離れた金持ち未亡人と再婚したことから端を発する。
つまり財産目当てと噂され、不動産業を営む父親に勘当されてしまったり、今度は再婚した未亡人の魔性の妹が登場してきて、更にその妹を篭絡しようとする舌鋒鋭い威風堂々とした中年の評論家が絡んで来ての、結果、元未亡人が射殺されるに至ったということが観客に提示される。
つまり、愛憎の果ての射殺事件なのだと。しかも当時の検事はまだ見習いで出世に燃えてもいて、どうやら状況証拠の積み重ねのみで陪審員を説き伏せた裁判でもあったらしい。
結果、少年は現在の威圧的で厳格な父親が信じられなくなり、家出をしてまで真相を知ろうと関係者を探し始めて行く展開。
これを現在と過去の裁判、少年の調査と徐々に解明提示されていく、ある種の謎解き法廷スリラーの進行。
監督は日本で絶大なる人気を博していたジュリアン・デュヴィヴィエで、主に戦前に佳作、秀作を輩出した。
本作は絶頂期ではないものの、解りやすい進行と作劇を心掛けていて素直に入り込める作品に仕上がっている。
特に厳格な検事役のシャルル・ヴァネルはお見事の一言。正義漢でもあり、実に嫌なタイプの人間でもあることを上手く表現している。
真実を探る少年が真面目過ぎて、どこか狂言回し的にも見えるのも監督の手腕だろう。
裁判の真実と殺人事件の真相なりがラストに集約され解き明かされていくのだが、愛という名の下の暴走が大人の男たちの身勝手さをも加速させるのだ。
確かに囚人は数奇な運命に翻弄されたとも感じるが、本人を含め周囲の関係者それぞれが因果応報なのではと複雑な心情に陥らせてくる。
少年のみがピュアなので、どうにも周囲の大人らが各々身勝手な『大人の事情』に正論を見いだしているようにしか見えないのだ。
一応の推理系裁判ドラマの態で進行させつつ、ラストに正義が勝利すればすべてがハッピー・エンドになるなんてことを簡単に想定するのは決して大人ではないぞと痛感させられる。
やはりフランス人は個人別『大人の事情』こそが『個性』なのであると集約されていくんだなと思い知らされる、何とも後味のよろしくないドラマ。
