スタッフ
監督:ジョセフ・ロージー
製作:ジャック・グリーンウッド
脚本:アラン・オーウェン
撮影:ロバート・クラスカー
音楽:ジョン・ダンクワース
キャスト
バニヨン / スタンリー・ベイカー
カーター / サム・ワーナメーカー
サフラン / グレゴワール・アスラン
スザンヌ / マルギット・サード
マギー / ジル・ベネット
タウン / ローレンス・ネイスミス
バローズ看守長 / パトリック・マギー
エドワーズ / リパート・ディヴィス
テッド / ナイジェル・グリーン
日本公開: 1962年
製作国: イギリス メルトン・パーク・プロ作品
配給: ヘラルド
あらすじとコメント
前回の「埋もれた青春」(1953)では刑務所に長年収監され、後に曲折があってやっと釈放される男のドラマだった。今回も刑務所から仮釈放される男が主人公で、展開に妙味があるクライム作品。
イギリス、ロンドン
3年の刑期を終え、バニヨン(スタンリー・ベイカー)が釈放された。彼は刑務所内で割と自由に過ごし看守長とも懇意にしており、ある意味で獄内の顔役であった。
釈放前日に彼らを裏切った男が再収監されて、間違いなくバニヨンが制裁を加えると思われていたが手下にやらせ、自分は手を染めず知らぬ顔でシャバに出た。
旧知の仲間カーター(サム・ワーナメイカー)がパーティーを開くと、情婦のマギー(ジル・ベネット)が乱入し台無しにしてしまう。実はバニヨンはカーターと組んで競馬場襲撃を計画していたので情婦は邪魔で蔑ろにした挙句の乱入だった。
しかし、今度はパーティーでバニヨンに一目惚れしたスザンヌ(マルギット・サード)が近付いてきて・・・
懲りない犯罪者が辿る非情な運命を描くクライム・ドラマ。
釈放後すぐに現金強奪に手を出す主人公。しかし、「金を洗う」ためにギャングのボスに手数料を払い、別紙幣に換金しなくてはならない。それが掟でもあるからだ。
手数料の高さに閉口しながらも従う主人公。ほとぼりが冷めるまでその金を一人で密かに隠す。ところが帰宅すると警察が待っていて、既に犯行がバレており仲間の一人が逮捕されていた。
恐らく裏切ったのは元情婦か旧知の仲間。当然、再度収監されるが、今度は大金を隠している情報が刑務所内で知れ渡り、情に厚い手下以外、圧倒的大多数が敵に回るのである。
しかも秘匿金目当てのギャングのボス配下も別グループで存在しているからややこしくなるという話。
ある程度は頭も切れ喧嘩も強い男だが、警察からの圧力も加わり所長、看守長らも敵に回ってしまい、手下もどんどん虐げられていく。
孤立させらていき、嫌でも脱獄し復讐と金の回収をするしかなくなる。
そこでも獄内の敵対グループの手助けがないと脱獄できないし、当然、外に出れば旧知の元仲間も狙ってくるはず。
それをどう捌いていくのか。主人公は獄内の顔役だが、何であれ組織をバカにしているところもある。要は一匹狼ゆえに結果、数の論理なり、組織力の影響を強く思い知らされていくという展開が待ち受ける。
着想としては妙味がある。「井の中の蛙」という存在。裏社会でハードに生き、且つ犯罪者なので、あくまで刑務所内といったごく狭い世界のみで自分を過大評価する自信ゆえだ。
新旧の女性二人の存在、仲間内でも誰が真の仲間なのか。だが、結局そいつらも犯罪者であり、相当なキレ者であるはずもない。看守長も腹黒なのか、それとも何らかの意図があるのか。
それらが絡み合っての進行でサスペンスの緊張感はある。
監督はジョセフ・ロージー。イギリス映画で活躍した監督だがアメリカ人。「赤狩り」のときに口をつぐんで、結局、共産主義者のレッテルを張られた挙句に渡英したのでアメリカ映画からは遠ざかっていた人物。
ゆえに反権力なり、個人の人権なり個性が蹂躙されたりする不条理ドラマを得意とした監督でもある。
本作も主軸は「個人の疎外」である。尤も、犯罪者ゆえの心理なのだろうが。
音楽がジャズとも違うクレオ・レーンによるクールなスキャットが印象的で極北感が漂うが、ロージー演出は粗っぽさが目立つのが難点という印象が勝る。
