怒りの葡萄 – THE GRAPES OF WRATH(1940年)

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スタッフ
監督:ジョン・フォード
製作:ダリフ・F・ザナック
脚本:ナナリー・ジョンソン
撮影:グレッグ・トーランド
音楽:アルフレッド・ニューマン

キャスト
トム・ジョード / ヘンリー・フォンダ
トムの母親 / ジェーン・ダーウェル
ケイシ─ / ジョン・キャラダイン
トムの祖父 / チャーリー・グレープウィン
トムの父親 / ラッセル・シンプソン
ロザシャーン / ドリス・ボードン
トムの祖母 / ゼフィ・ティルベリー
ジョン / フランク・ダエリン
警官 / ワード・ボンド

日本公開: 1963年
製作国: アメリカ 20世紀フォックス作品
配給: 昭映


あらすじとコメント

ジョン・フォード監督作にして、貧しい家族の運命を描く作品で継げる。ヒューマニズムに溢れた貧農一家の過酷な道程を描く力強い秀作。

アメリカ、オクラホマ

全米に不景気の嵐が吹きすさんでいた恐慌下の時代。国道を歩いていた男がトラックの運転手に乗せてくれないかと声をかけた。訝しがる運転手だが好意で同乗させてくれた。

車中での会話から男はジョード(ヘンリー・フォンダ)と名乗り、殺人で4年の刑期を終え仮出所してきたと。驚く運転手だが、相手に刺されてからの過剰防衛だったと続ける。

途中でジョードは礼を言うと車を降り、自分の家のある方へと野を横切りだす。すると元説教師のケーシー(ジョン・キャラダイン)が彼を認め話し掛けてきた。君は僕が洗礼したんだが、色々あって今は説教師をやめたんだ、と。

二人は一緒に歩きだし、夜になってやっとジョードの家に着いた。しかし、家はもぬけの殻で・・・

貧農一家が辿る絶望的な道中を描く秀作。

刑期を終え実家に戻るが、家族は周囲と共に強制立ち退きをさせられ叔父の家に移ったと知らされる主人公。

元説教師も同行し、何とか家族と再会し家族全員で喜び合うが、そこの叔父の家も立ち退きを強制されていた。

家族は新天地カリフォルニアでは労働者を大挙高賃金で募集中のチラシを大事そうに持っていて、一家総出でオンボロトラックに無理矢理乗り込んで行くという。

そこで主人公と元説教師も同行を申し出て、総勢12人で大陸横断的強行軍で向かうという内容。

情報量が圧倒的に少ない時代。しかも無学な農民一家で、周囲の知り合いたちもここで生まれて死ぬことを繰り返してきた人々。何故なら自分の土地だからと平然と言う、それこそ『開拓者魂』の価値観のままなのだから。当然、今後もこのまま生きていくと信じていた。

そこに搾取側の資本者たちが手練手管と官憲をも手懐けての強硬手段で貧農たちを家畜の如く追い出していくし、途中で仕事を貰おうとしてもそこでも徹底的に狡賢い搾取側によっていたぶられる。

無学だが真面目。しかしすべてが悲劇に直結していく。移動過程で自分らのような貧者が溢れ返っていると知り驚愕する一家。

ゆえに誰もが疑心暗鬼になり他者を猜疑的にしか見ていけなくなっていく。

冒頭から嫌な予感しかしないスタートでその通りの展開となり、どれ程の『普通』であった人間たちが一部の金満家と権力者に蹂躙されていたかを嫌というほど見せつけてくる作品である。

初めの家族との再会で目頭が熱くさせられると、以降も度々涙腺を刺激してくる展開。

ジョン・フォード監督は「駅馬車」(1936)や「荒野の決闘」(1946)といった西部劇の巨匠というイメージがあるが、「わが谷は緑なりき」(1941)や本作のようなヒューマニズム溢れる人間ドラマを誇り高く謳い上げる秀作も輩出した名匠である。

前出の「わが谷は緑なりき」はウェールズという炭鉱町内だけで貧しいが愛に満ちた家族が描かれたが、本作は真逆で安寧場所を求め移動する絶望的なロード・ムーヴィーとして進行していく。

そのアメリカという広大な土地がどれほど人間に対して容赦なく、ただ「だだっ広い」だけではなかろうかと痛感させてくる。

同じような光景ながら西部劇とは全く違う閉塞感を醸すから驚く。

金満家や銀行サイドの大手搾取側は登場せず、官憲側や『正義の自警団』が暴力で支配抑制するのは当然というスタンスだし、立ち退きや当事者たちと直接対峙させる者も直前まで同じ待遇者だったと徹底した反骨精神で謳い上げる。

それでもめげない一家だが主人公が前科者であり、直情型性格を心配する母親や、唯一他人ながら同行する元説教師の存在など、アンサンブルの取れた見事としか言いようのない登場人物たち。

それを演じる役者陣も脱帽モノの素晴らしさであり、特に母親役のジェーン・ダーウェルと元説教師役のジョン・キャラダインは登場するだけで涙腺を刺激させる圧倒的存在感。

大陸横断中に一期一会で登場してくる様々なキャラクターも大変魅力的で、誰もが適材適所であり、無名ながらも流石アメリカは大陸同様に俳優の幅が広いと感じさせる。

中でも極貧移動中に田舎料金しか知らぬ父親が末っ子二人を連れてダイナーでパンを買おうとするシークエンスでの「人間は信用に値する」と思わせる市井の人間たちによる『小さな好意』の連鎖は特筆に値する。

このシーンだけは声高に反体制を描かなくても観る側の心を強打し愛とやさしさに感極まった。

グレッグ・トーランドによるカメラワークも美しく、広大さゆえの狭小感を醸して印象的。ピュリッツァー賞を獲ったジョン・スタインベックの原作を脚色したナナリー・ジョンソンの手腕も評価に値するし、白黒スタンダード画面の作品ながら、これほどトータル的に見事に「アメリカ」を描破した作品も珍しい秀作。

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