スタッフ
監督:ピエトロ・ジェルミ
製作:カルロ・ポンティ
脚本:A・ジェンネッティ、P・ジェルミ、L・ヴィンチェンツォーニ
撮影:レナート・バルボーニ
音楽:カルロ・ルスツケリ
キャスト
マルコッチ / ピエトロ・ジェルミ
サラ / ルイーザ・デラ・ノーチェ
ジュリア / シルヴァ・コシナ
サンドロ / エドアルド・ネヴォラ
リヴェラーニ / サロ・ウルツィ
ポルギ / カルロ・ジュフレ
マルチェロ / レナート・スペツィアーリ
ウーゴ / アメディオ・トゥッリ
委員長 / アントニオ・アクア
日本公開: 1958年
製作国: イタリア E・N・I・C作品
配給: イタリフィルム、NCC
あらすじとコメント
イタリアの監督ピエトロ・ジェルミ。自身が出演する作品も多く本作もその一本。彼の作品の中では何度もリバイバル上映された一番有名な作品と思われる。
イタリア、ローマ
クリスマス当日が誕生日であり、丁度50歳になったマルコッチ(ピエトロ・ジェルミ)は妻サラ(ルイーザ・デラ・ノーチェ)、末っ子サンドロ(エドアルド・ネヴォラ)と暮らしている。
長女ジュリア(シルヴァ・コシナ)は結婚し出産間近。他に長男マルチェロがいるが他所で暮らしていた。
クリスマスでもあり家族全員が集まって家長の帰宅を待っているが、同僚らと一緒に酒場に行って大騒ぎしてしまう。末っ子が迎えに行くがそこは幼子。盛り上がって楽しそうな父の姿に何も言い出せず、結局閉店まで一緒に居残ってしまった。
上機嫌で帰宅すると室内には誰もおらず、メモが残されていた。
長女に異変が起き、緊急で病院に行くと・・・
ある鉄道員の激動の一年を描く人間ドラマ。
下積みを重ね特急専門の運転手に昇格した50歳になる男が主人公である。
周囲にも一目置かれ上機嫌だ。しかも家庭では昔気質の封建的価値観で家族を支配するタイプでもある。
妻は静かでひたすら夫についていくタイプだし、末っ子も幼子だけに素直に父親は憧れの対象でしかない。
しかし長女は当時の「女性たるもの結婚初夜まで純潔」という価値観を破り、食料品店勤務の男と関係を持ち妊娠。
散々罵倒するが、結局結婚を許可したのも、実は世間体もあり狭い家から追い出したかったようにも見える。
長男は怪しい詐欺的なビジネスに手を染め、借金があるようだしと一筋縄ではいかない環境でもある。
そこに持ってきて身勝手で仲間と大騒ぎしている最中に長女は流産し、以後旦那との間にギクシャク感が生じて行く。
主人公自身も特急運転中に線路への飛び出してきた自殺者を轢いてしまい、直後精神的にやられてしまい、続いて信号無視をして衝突事故寸前まで行き、左遷。
と雪だるま式に家族たちが絶望へと追いやられていく展開で、何とも重苦しく嫌な心持に追い込まれていく。
市井の人間に襲いかかる人生の重責や岐路を描く「ネオ・リアリズモ」の典型的設定である。
公開当時、同じく敗戦国日本の男たちは身につまされるこれらの作品群に自身の境遇を重ね、過剰に思い入れしていたようだ。
あくまで家長は男であり女性は養われる立場なので亭主を助けるのが前提という価値観。
今見ると主人公の設定は自己欺瞞と寂しがり屋の虚勢とすぐに分かるだろう。
結果として自己憐憫が周囲にもたらすものは何かを描いていくので、どうにも胸焼けを感じる進行。
そこに哀愁をに満ちたテーマ曲と王道である「いたいけな幼子」をある意味、狂言回し的役どころで軸に置く。
当時の、社会の風潮から組合の台頭、スト破りなど世相も反映されていき、そのどれもが主人公にはマイナスに働いてしまうという展開も共産主義への啓蒙でもあり、一定の距離感を保ちつつの悲劇と再生がメインとしての作劇。
時代性を感じざるを得ないのだが、それでも至極真っ当なヒューマン・ドラマとして機能している。


