スタッフ
監督:ジョン・G・アヴィルドセン
製作:スティーヴ・シェイガン
脚本:スティーヴ・シェイガン
撮影:ジェームス・クレイブ
音楽:マーヴィン・ハムリッシュ
キャスト
ストーナー / ジャック・レモン
グリーン / ジャック・ギルフォード
マイラ / ローリー・ハイネマン
モレル / ノーマン・バートン
ジャネット / パトリシア・スミス
ロビンス / セイヤー・デヴィッド
マイヤー / ウィリアム・ハンセン
マーゴ / ララ・パーカー
リコ / ハーヴェイ・ジェイソン
日本公開: 未公開
製作国: アメリカ フィルムウェイズ作品
配給: なし
あらすじとコメント
「泣く女」(1971)の監督ジョン・G・アヴィルドセンが前作に続いて発表した未公開作。コメディからシリアスまでこなす名優ジャック・レモンが念願のアカデミー主演男優賞を受賞したかなり重い人間ドラマ。
アメリカ、ロサンジェルス
創立15年目の服飾メーカーを経営するストーナー(ジャック・レモン)は業績悪化から赤字に転落していた。工場労働者を含め90人を雇っており、上昇志向の妻、地域の治安懸念からスイスの私立に留学させている娘もいる。しかも見栄を張り、住んでいるのはビバヴァリーヒルズのプール付き邸宅。
しかし、それらがすべてが裏目にでている現状。正規の銀行融資は、もはや難しいと経理担当のグリーン(ジャック・ギルフォード)に告げられてもいる。八方塞がりの状態に彼は追い込まれていた。
しかも今日の午後からは顧客を集めての社運を賭けた新商品紹介ショーが待っている。しかし、そんなときに限ってゲイのデザイナーと何十年も苦楽を共にしてきた老裁断師と諍いが起きる始末。
そこで進退極まったストーナーは・・・
中年社長の長い一日を描くニュー・シネマ的人間ドラマ。
完全に行き詰っているアパレル企業の社長。彼が主人公で次々とトラブルが起き続けていて、もうすぐ不渡りを出してしまう状況。
明るい可能性は、午後に予定されている全米から顧客を招いての新作発表会のみ。しかし、それだって現金化になるのは随分と先。
冒頭、悪夢にうなされての起床に始まり、妻のNY行、出勤途中でヒッチハイク中のヒッピー少女を乗せると「一発ヤる?」と誘われたり、どうにも災難が連鎖していき観客は確実に胸焼け的圧迫感を押し付けられてくる。
とはいえ主人公の腹は決まっていて、何と第2工場に放火を依頼し保険金をせしめようと画策しているのだ。罪悪感はあるものの、昨年は帳簿を誤魔化しているので妙に自信がある。
その計画を知るのは経理担当と観客のみであり、そんなことを根底に考えているから、自業自得の如く更に不幸な出来事が立て続けに起きて行くのだろうと思わせるのも事実。
会計担当や老裁断師のヴェテラン組は何とか主人公を理解し、助言をしたくても主人公自身に心と時間の余裕がない。
自分の力でここまで伸し上がって来たという自負もありながら、疎外感が際立ってくる展開。アメリカン・ドリームの成れの果てとも印象付けられる。
主人公は第二次大戦での激戦を生残り、戦死した仲間らに負い目を感じているし、好きな音楽や価値観も時代錯誤であるのだが、自分自身はそれに気付いていない。
そのどれもが主人公の首を自分で絞めさせているのだと思わせる。つまり自らが進んで『裸の王様』になっているのだ。
何といっても主役を演じるジャック・レモンの演技が圧倒的過ぎる。間違いなく主演賞を総なめにすると確信させられる。
ほほ会社関係者のみで進行していくのだが、ヒッチハイクで乗せたヒッピー娘の存在が妙に異質でもある。
しかも彼女を完全にヴェトナム戦争へのアンチテーゼとして存在させ、それが主人公の第二次大戦での経験と妙に化学反応を起こさせる。
更に主人公より人生のヴェテランである老人仲間との世代間格差の繋がりもきちんと描かれる。
つまり中年成功者ゆえのジレンマと葛藤というアメリカン・ニュー・シネマ的自分探しに重なり、実に興味深い。
ただ本作の場合は自分を見失っているが再発見できるかというものだが。
個人的には主人公が愛する古いスィング・スタンダート・ジャズに関する描き方が『通好み』過ぎてツボであった。
ヒッピー娘との会話で好きなミュージシャンを言い合うシーンでは、主人公はグレン・ミラー、ベニー・グッドマンとかなり古めの名前を嬉々としてだす。この場面でも彼の錯誤感が際立つのだ。
しかも印象的に起用されるスタンダードの楽曲が大好きなもの。それが冒頭ではデューク・エリントン楽団の演奏で始まり、ラストに別プレーヤー・ヴァージョンのやつで締めるとは驚いた。
つまり同じ楽曲ながら、違うアレンジだとこれ程印象が変わるのかという驚き。
しかもラストで流れるのは自分が一番好きな演者ヴァージョンなので、一気に主人公の孤独感が理解出来て泣いてしまった。
誰もが入り込めない映画だとも思うし、ゆえに劇場未公開も頷ける作品ではある。
だが、人生の折り返しを過ぎたと自覚する男には刺さるものがあるだろうとも強く感じる。


