スタッフ
監督:バジル・ディアディン
製作:マイケル・レルフ
脚本:ウィリアム・ローズ、ジョン・エルドリッジ
撮影:ダグラス・スローカム
音楽:ウィリアム・オルウェン
キャスト
ジャン / ヴァージニア・マッケンナ
スペンサー / ビル・トラヴァース
クィル / ピーター・セラーズ
ファザッカリー婦人 / マーガレット・ラザフォード
カーター / レスリー・フィリップス
トム老人 / バーナード・マイルズ
ハードキャッスル / フランシス・デ・ウルフ
マレーネ / ジューン・カニンガム
ホッグ / シドニー・ジェームズ
日本公開: 未公開
製作国: ブリティッシュ・ライオン・フィルム作品
配給: なし
あらすじとコメント
怪優ピーター・セラーズの未公開作。田舎町のオンボロ映画館を相続した若夫婦を描く心温まるコメディ。
イギリス、スローボロー売れない小説家スペンサー(ビル・トラヴァース)とジャン(ヴァージニア・マッケンナ)夫妻の元へ、疎遠だった叔父が死亡し、映画館の相続権を得たとの連絡が入る。その映画館を売却すれば相当額になると喜び勇んで現地に向かった。
ところが、それなりの大型施設だと踏んでいた夫妻だが、クラシカルを通り越して前世紀の遺物的であり、崩れかけの廃屋のような代物。消沈する二人だが、更に彼らを驚かせたのは、営業していないにも関わらず住みついている老映写技師クィル(ピーター・セラーズ)を含めた三人の老人たち。
これでは簡単に売れるはずもない。仕方なく、何とか再営業を模索しようとするが・・・
「映画館」を知る世代には感涙モノのハートフル・コメディ作。
廃業状態のオンボロ映画館を再建しようとする若夫婦たち。
小さな映画館で内装はボロボロ。しかも両側を鉄道の高架に挟まれた立地で、列車通過時は地震の如く揺れる。機材や設備も古く従業員も老体ばかり。
街には大劇場があり、当然、そちらに観客は流れている。あちらは休憩中にピンナップガール的美女が「お煎に、キャラメル、あんぱんにサンドイッチ」と売り歩く。
そして主人公夫婦も真似できるものは恥ずかしげもなくパクることにする。こちらの場合、売り子は人妻だ。男性客が群がり何が起きるかは想像付く。
更には偶然、西部劇上映中に蒸気機関車と馬の追っ掛け場面で、劇場に隣接する高架を列車が通過し抜群の臨場感が生まれた。ところが映写室では映写機が落ちないように必死で押さえてる。何とも微笑ましい場面である。
そしてそこからヒントを得ると、次は砂漠を彷徨う冒険映画では、館内の暖房をマックスにして、上映直後には清涼飲料水を移動販売する。
ところが映写室では技師が画面を見て喉が渇き、隠し持っていたウィスキーに手をだしたから、さあ大変。通過列車の振動でラブシーンでの男女の台詞が入れ替わったり、フィルムの入れ間違いで逆転映写になったり。
どこかサイレント映画へのオマージュでもあり、全体的に何とも映画愛を感じる。
その上、封切館ではなく名画座で見ていた観客には理解できる「あるある」が幾つも登場してくる。
使いまわしフイルムの劣化で途中で切れたり、絡まって燃えてしまい上映中断が起きる。観客はヒューヒューと口笛を吹いたり、手を叩いて大騒ぎ。若いカップルには絶好のデート場所であり、イチャイチャと映画そっちのけ。
映画は「娯楽」であり、映画館は「娯楽の殿堂」。シネコンとは違う一体感を生む共同体験。
大上段に構えるのではなく、これぞ斜に構えた『映画愛』に満ちていて、コメディのくせに、二度と簡単には味わえない経験が甦り、映画を映画館で見ていたファンの琴線を刺激する。
内容もコンパクトで90分にも満たない小品だが、何とも映画愛が伝わる。