スタッフ
監督:ジョセフ・フォン・スタンバーグ
製作:アドルフ・ズーカー
脚本:ジュールス・ファースマン
撮影:リー・ガームス
音楽:W・フランク・ハーリング
キャスト
マデリン / マレーネ・ディートリッヒ
ハーヴェイ / クライヴ・ブルック
チャン / ワーナー・オーランド
フー・フェイ / アンナ・メイ・ウォン
サルト / ユージン・パレット
カーマイケル / ローレンス・グランド
ハガーティ婦人 / ルイーズ・クロッサー・ヘイル
バウム / ギュスターヴ・フォン・シェイフェリッツ
車掌 / ハーバート・エヴァンス
日本公開: 1932年
製作国: アメリカ パラマウント作品
配給: パラマウント
あらすじとコメント
前回の「香港定期船」(1959)は、エキゾチックな異国で白人系外国人が巻き起こす騒動を描いた内容だった。今回は動乱の中国本土で、内乱に巻き込まれる外国人たちを描く作品。
中国、北京1931年、中華民国国民政府と中国共産党による内戦が続いていた時期。北京から上海に向かう列車には英国軍軍医のハーヴェイ大尉(クライヴ・ブルック)や、白人と中国人のハーフで謎めいたチャン(ワーナー・オーランド)、病気持ちと吹聴するドイツ人、上海で民宿を営むイギリスの婦人など、個性的な面々が乗車していた。
そこに、『上海リリー』と呼ばれる美女マデリン(マレーネ・デートリッヒ)もいたが、どうにも評判が芳しくない彼女は、全員から煙たがられていた。
しかし、彼女とハーヴェイ大尉は、その昔恋人同士で・・・
多様な外国人を乗せた列車で繰り広げられるアクション系メロドラマの佳作。
エリート外科医との恋に破れ、以後、男たちを篭絡しては悠々と生きてきたヒロイン。
その原因を作った元恋人と再会するが、ボタンの掛け違いや、双方のプライドによる信頼の欠如で、微妙な雰囲気になる。そこに持ってきて中国内乱での国民革命軍と紅軍のせめぎ合いという状況下。
フランス語しか話さない老軍人や、真面目一本で正論しか通用しない神学博士、ギャンブラー的商売人など、何とも怪しげな外国人ばかりが乗車している中で、スパイ容疑や外国人排斥といった様々なサスペンス要素が展開されていく。
本作と同年に製作された「グランド・ホテル」(1932)と同じ、限定空間内での多様な人間ドラマのスタイルであり、走る列車内で起きるサスペンス的ドラマは、後にヒッチコックによって映画化された秀作「バルカン超特急」(1938)にも影響を与えていると感じた。
作劇法も、当時にしては斬新なショット、音楽と画面の相乗効果によるミスリーディングのカットなど、意匠も凝っていて興味深い。
しかし、何と言っても本作の白眉はマレーネ・ディートリッヒの息を飲む美しさである。
これぞ『銀幕のスター』の輝きを放ち、スタンバーグ監督も、様々なアプローチで彼女の美しさを際立たせてくる。
ただ、その強調性が時々、進行のリズム感を妨げるが、それは、それほど彼女の美しさに息を飲むしかないという逆説でもある。
混乱したエキゾチックな異国とクセのある人間ばかりが織り成すアンサンブルはサスペンス・アクションとしても キザなロマンス劇としても見事にミキシングされ、成立している佳作と呼べるだろう。