悲愁 – FEDORA(1979年)

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スタッフ
監督:ビリー・ワイルダー
製作:ビリー・ワイルダー
脚本:I・A・L・ダイヤモンド、B・ワイルダー
撮影:ジェリー・フィッシャー
音楽:ミクロス・ローザ

キャスト
デトワイラー / ウィリアム・ホールデン
フェドーラ / マルト・ケラー
ヴァンドー博士 / ホセ・ファーラー
ソブリヤンスキー伯爵夫人 / ヒルデガート・ネフ
ソブリヤンスキー伯爵 / ハンス・ヤーライ
ミス・バルフォー / フランシス・ステンヘーゲン
ホテル支配人 / マリオ・アドルフ
アカデミー協会委員長 / ヘンリー・フォンダ
マイケル・ヨーク / 彼自身

日本公開: 1980年
製作国: 米、西独、仏 ジュリア・フィルム 他作品
配給: IP


あらすじとコメント

「皇帝円舞曲」(1948)の監督ビリー・ワイルダー。大の御贔屓で、今回は洒脱なコメディではなく、映画界の内幕を描いた重いドラマにしてみる。

ギリシャ、コルフ島映画プロデューサーのデトワイラー(ウィリアム・ホールデン)が、遥々、伝説の女優フェドーラ(マルト・ケラー)に、出演依頼のためやって来た。

70歳に近い年齢ながら整形手術で30代そこそこの美貌を保っている、ある意味、化け物のような存在だ。しかし、そんな彼女は引退しており、ソブリアンスキー伯爵夫人(ヒルデガート・ネフ)が所有する無人島のヴィラに形成外科の権威ヴァンドー博士(ホセ・ファーラー)ら、数人で住んでいて、滅多に外にでることもない生活を送っている。

それでも、この企画に賭けているデトワイラーは何としても彼女に会おうと逗留を決め込んで・・・

伝説の女優を巡る複雑な人間模様を描くサスペンス・ドラマの佳作。

整形手術で信じ難い若さと美貌を保ち続ける伝説の女優。

そんな彼女を何とか表舞台に引きずりだそうと画策するフリーの崖っぷち映画プロデューサー。そして女優を取り巻く、怪しげで謎めいた人間たち。

流石の「映画界」である。

往年のワイルダー・ファンなら、すぐに氏の傑作「サンセット大通り」(1950)を連想するだろう。

何せ主演は同じウィリアム・ホールデンで、伝説の女優が謎めいた執事と怪しげな大豪邸に住んでいて、映画復帰を夢見るうちに、おぞましい世界が浮かび上る話であるから。

本作との類似性も多く、どちらもコメディ要素がまったくない『ハリウッド内幕もの』。

ワイルダーとしては本作が日本最後の公開作である。本作まではコメディばかり作ってきたが、終盤にこれを持ってきたかと初見当時、本当に驚いた。

この後、未公開作を一本作っているが、本作こそワイルダーの『最後っ屁』に値するとも思う。

監督の作品を追ってきた人間からすると本作で登場してくる『パリの弦楽四重奏団』は「昼下がりの情事」(1957)のイメージ。

また、本作でのギリシャのホテル支配人は、「お熱い夜をあなたに」(1972)におけるイタリアのリゾート島のホテル支配人と同等の緩衝材的存在である。

しかも、本作ではマリオ・アドルフというイタリア人に演じさせ、逆にあちらではクライヴ・レヴィルというニュージーランド出身者に演じさせている。どちらも設定上の自国人でないというのも、どこか、ワイルダー自身の対比的互換性の集大成を意識してのことだろうかとも思った。

映画自体は、冒頭、とある女性の列車への飛び込み自殺で幕を開ける。このシーンは完全にヒッチコックかと驚いた。

そして豪華な葬儀のシーンへとシフトし、それからギリシャの小島へと展開していく。

更に、1947年のハリウッドでの出来事、謎めいた何かの布石と思える場面が登場してくる。

つまり時間軸が行ったり来たりするが、そこは流石のワイルダー、混乱せずに引き込まれる。

それに監督らしく白い手袋や鏡、同じ文章が何百回と書かれた数冊のノートといった「小物使い」の妙味も維持している。

ヒロインの設定は、グレタ・ガルボ、グレース・ケリー、マレーネ・デートリッヒといった往年の女優たちの複合体だろう。

何とも皮肉が利いているのに洒脱な台詞も登場してきてオールド系映画ファンなら、流石だとニヤリとさせられる。

カメオ出演ながら、ヘンリー・フォンダや重要な役で本人役を演じるマイケル・ヨークなど、憎い配役だと感じ入った。

御贔屓監督だけに、ある程度は色眼鏡で見ているが、それでも「整形天国」映画界の内幕と、怪しげで謎めいた取り巻き連中が『本来の人間性』をどのように圧し潰していくか、もしくは、逆に平然と生き残って行くのかを啓示してくれる。

決して「夢の世界」ではないと素人の憧れを木っ端微塵に吹き飛ばしてくれる、罪作りなミステリー系人間ドラマの佳作。

余談雑談 2021年9月25日
やっとなのか、一時の気休めか。今度の金曜日、つまり10月がら飲酒開放となりそうだ。とはいっても完全フリーではないし、冬には再発令かもと疑心暗鬼にさせる。 時々、午前中早目の口開け時にだけ行く、唯一酒を飲んだことがないカウンターだけの中華屋。