案の定、宣言延長だ。これで飲酒難民が続くと思うと晴天でも心は梅雨空だわな。
まあ、東京もはっきりとした梅雨入りの発表もないし、後々、突っ込まれないようにここでも安全策か。
どの道、何をしたって文句をいう奴はいるから、少しでも被害が少ない方を選ぶ。自分もその立場だったら同じだし。
それはさておき、先週もここで書いたが、思いがけず飲酒可能だった食堂に今週も出向いた。
メニューはカレー系とラーメンの類しかなく、ツマミは一切ない。なので今回はカツカレーとビール大瓶にしようと決めていた。
天気も曇天から、少し晴れ傾向だ。二週続けて幸運なランチだと、2キロの道のりを徒歩で向かった。歩きながら、ふとイタリアのフィレンツェとはずいぶんと違うな思い出した。
何せ、絶好の季節で予報も快晴で100キロ離れたボローニャの友人宅から向かった三回とも、スコールに遭ってしまった。ボローニャの友人からも、この時期、その荒天は珍しいと笑われた。なので4回目は、絶対にありえなくなった。
まあ、あれだけ大好きだったイタリアも諸般の事情で四半世紀も行ってないし、再訪もないだろう。
それにフィレンツェは世界中の人間が憧れる芸術的な街だが、これから向かうのは、天下のドヤ街「山谷」である。結局、場末感漂う極北の地の方がウェルカムってことだな。
そんなことを考えながら、地帯に近付くと一瞬にして漂う空気が変わる辻がある。そこまで来ると、少しだけ気が引き締まる。
で、店の手前に地域的には珍しい広い駐車場付きのコンビニがある。ふと視界に入ったのは、流石の山谷という光景。
一番安い缶チューハイだけを持った、汗染みで変色したキャプを被った、いかにもその地帯に長年馴染んできたであろう老齢族が三人、植え込み近くに地べた坐りして宴会中。やはり、店前でも若者たちのたむろとは、格が違うぜ。
11時を少しだけ廻った好天下。流石だなと微笑んでしまう自分。すぐ先の店に入ると口開けの客で、ビールと告げる。
大瓶を飲みながら店内を見回すと壁に栄養士免状の額が掛けてある。何と、発行人は美濃部亮吉都知事。一体、いつの免状だよと微笑んだ。
さり気なく、小皿にたくあんが三切れ出てきた。そのタイミングでカツカレーを注文。
次に目が行たのは、薄日が差し込む曇りガラスがはめられた開くか開かぬか解らぬ木枠の窓。
何とカギがネジ式じゃないかよ。そう、差し込んで回す代物。それも一体、いつの時代だ。まあ、平成じゃないのは確実だね。
窓枠のニスだって、何度も重ねて塗っている厚さだぞ。窓下のカウンターに置きっ放しの雑誌だって、3年ぐらい前の発行。
ある意味、フィレンツェとは比べようもないが、日本的古さは感動的ではある。
そこに地元のジイさんが来た。向かいのテーブルに坐ると黙って店主に向けて指を一本立てた。常連さんか。親父さんも黙って頷いた。
何てことない、ビールだった。これぞ、忖度ならぬ、阿吽の呼吸か。それに考えようじゃ、ひとりでの飲食で、静かに会話もしないという大人の対応じゃないか。
でもさ、この雰囲気は、やっぱり心落ち着くんだよな。豪勢にカツカレー喰って、一本飲み終わっても12時前。
何と素敵な時間。子供の夏休みじゃないが、帰って午睡だなと嬉しくなった。
後は、宣言明けに好きな店が全店再営業してくれ、と祈るだけ。