死刑台への招待 – RETURN FROM THE ASHES(1965年)

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スタッフ
監督:J・リー・トンプソン
製作:J・リー・トンプソン
脚本:ジュリアス・J・エプスタイン
撮影:クリストファー・チャリス
音楽:ジョン・ダンクワース

キャスト
ピグリン / マクシミリアン・シェル
ファビエンヌ / サマンサ・エッガー
ミシェール / イングリット・チューリン
ボヴァート博士 / ハーバート・ロム
ポール / ウラデク・セイバル
刑事1 / ジャック・ブリュニュー
刑事2 / アンドレ・マランヌ
看護師 / ダニエル・ノエル
列車の女性 / イヴォンヌ・アンドレ

日本公開: 1966年
製作国: イギリス ミリッシュ・コーポ作品
配給: ユナイト


あらすじとコメント

前回の「沈黙」(1962)の主役イングリット・チューリン。ベルイマン監督とは名コンビでスェーデンを代表する女優である。そんな彼女が主演したイギリス映画で繋げた。サスペンスに満ちたJ・リー・トンプソン監督絶頂期のいぶし銀のようなスリラー映画。

フランス、パリ第二次大戦が終わった1945年、夜行列車でミシェール(イングリット・チューリン)がやって来た。彼女は乗車中、子供が列車から落ちるという事故を眼前で見たが、他の乗客が大騒ぎする中、表情ひとつ変えずに座っているような中年女性であった。そんな彼女の腕にはアウシュビッツで彫られたユダヤ人用の番号があった。

宿を取った彼女は、戦前同僚であったボヴァード博士(ハーバート・ロム)を訪ねた。変わり果てた彼女の姿に驚く博士。

そしてミシェールは夫であるピグリン(マクシミリアン・シェル)がパリにいることを知って・・・

アウシュビッツから帰還した女性が辿る悲劇を描くスリラーの佳作。

戦前は、バツイチながら有能な放射線医師として活躍し、ポーランドから亡命していたチェス名人の男と再婚したヒロイン。

ところが、ユダヤ人であることから強制収容所送りになった過去を持つ。

戦後奇跡的に生還し、夫との再会を楽しみにするが、何と夫はヒロインの前夫の娘と同棲中。

しかも、義理の娘はヒロインの膨大な遺産を相続する権利があるが、彼女が消息不明ゆえ何年も相続できない状況にいたという展開。

奇妙な三角関係が生じる、というか、以後の想像は付きやすい内容ではある。

それでも、監督の力量や出演陣の演技によって、どう盛り上げていき、どんなラストに持って行くのか。

そういった点では、本作は面白い部類に入るだろう。ただし、時代性は否めないが。

決して派手ではないキャスト陣。というよりも完全に地味系である。だからこそ、解りやすくもあり、解りにくさもあり、と混乱させる。

何といっても、本作の成功は絶頂期のJ・リー・トンプソン監督の処理能力である。

イギリス時代の「恐怖の砂」(1958)や「追いつめられて・・・」(1959)から、アメリカに渡り、「ナバロンの要塞」(1961)、「恐怖の岬」(1962)といった冒険スリラー系の秀作、佳作を輩出してきたが、押し付け仕事もあり、一時、低迷したが本作で見事にカムバックしたと感じる。

キャロル・リードやヒッチコックを生んだイギリス製スリラーの系譜を踏襲し、クローズ・アップ、思わせ振りな画面の切り取り方、斜め画面による心理的不安定さを際立たせる描写、バスト・ショットや顔のアップを織り交ぜる編集のリズム感。音楽や効果音、照明の大袈裟な使用法。

どれもが、とっくに過ぎ去っていたイギリス映画の黄金時代を彷彿とさせている。

スリラーやサスペンス映画は時代と共に劇的に進化し、設定から落とし所まで、確かに予定調和に向けた「あざとさ」を感じる観客もいようが、それでも、埋もれた系のスリラー映画としては捨て難い佳作である。

余談雑談 2021年3月27日
桜が満開の東京。このところ天気も安定傾向で、案の定眼下の公園はすごい人出でもある。 全員がマスク姿であること以外は昔に戻っている印象。一年の禁欲生活が、現在の日本人の我慢の限界なのだろうと思った。 で、一般とは違う個人的な『一年』の不都合が