スタッフ
監督:イングマール・ベルイマン
製作:アラン・エーケルンド
脚本:イングマール・ベルイマン
撮影:スヴェン・ニクヴィスト
美術:P・A・ルンドグレン
キャスト
エステル / イングリット・チューリン
アナ / グンネル・リンドブロム
ヨハン / ヨルゲン・リンドストロム
ホテルの老給仕 / ホーカン・ヤーンベルイ
カフェのボーイ / ビルゲル・マルムステン
劇場の中の女 / リッシ・アランド
劇場の中の男 / ライフ・フォステンベルイ
小人たちの座長 / エドアルド・フティエレス
小人たち / エドアルディーニ一座
日本公開: 1964年
製作国: スウェーデン スヴェンスク・フィルム作品
配給: 東和
あらすじとコメント
今回もスウェーデンが生んだ巨匠イングマール・ベルイマン監督作。静かながら強烈な異臭を放つ問題作。
東欧某国、ティモカ夏のヨーロッパ旅行から列車で帰国の途に就くエステル(イングリット・チューリン)、妹のアナ(グンネル・リンドブロム)とその一人息子で10歳になるヨハン(ヨルゲン・リンドストロム)。
しかし、元来病弱なエステルはあまりの暑さに体調を崩し、見知らぬ駅で妹らと列車を降りてホテルに投宿した。そこは言葉も通じない場所で、担当の老給仕とは手振りで会話するしかなかった。それなりに広いクラシカルなホテルだが、客はショーに出演する小人集団だけでどこか不気味ささえ漂う。
エステルは翻訳家ということもあり、休養しつつ仕事に取り掛かるが、美人のアナはすることもなく鬱憤が溜まって行き・・・
女の業を背筋が凍るほど冷徹に描くドラマ。
理知的な印象を放つ姉と、正反対の雰囲気を醸す妹。姉妹ながら、互いの心に静かに流れる川の溝は深いと感じさせてくる。
その上、蒸し暑さがこちらにも伝わるカメラワークでじっとりと心に汗をかく感覚も呼び起こす。
姉妹の間には近親相姦的な匂いも充満し、それが本来は近親憎悪ではないのだろうかとも痛覚を刺激してきた。
ただし、これは再見したからであり、30年以上も前に初めて鑑賞したときは理解不能であり、途中でリタイアしたくなった。
やはり血気盛んなだけの頭でっかちな若造には、この重苦しい人間の『性』は想像もできなかったとも思った。
『神』と『人間』の関係性を問い続けるベルイマン作品群。そして本作のタイトル「沈黙」は何を意味するのかと当時の評論家たちの記事も追ってみたが、様々な評論があり、やはりベルイマンは難解としか認知できなかった。
自分のような何かしらの宗教を熱心に信仰していない者としては軽率に神との対話など語ってはいけないとも感じさせた。
姉妹の精神的渇望と肉体的欲求。それぞれが真逆であるゆえに相容れないというか、許容できないゆえに自己中心的になり、それは息子にも伝播していく。
人間の孤独と虚無。それが、やがて更なる虚無へと変貌していく緊迫感。他方でグロテスクな『性的欲望』が、家族に与える絶望。
結果、行きつく先は和解でなく乖離。鉛の塊が心のどこかに淀んでしまうような重厚なる人間ドラマ。