スタッフ
監督:ロジェ・ヴァディム、ルイ・マル、F・フェリーニ
製作:アルベルト・グリマルディ、レイモンド・イーガー
脚本:D・ブーランジェ、ルイ・マル、B・ザッポーニ 他
撮影:C・ルノワール、T・デリ・コリ、G・ロトゥンノ
音楽:ニーノ・ロータ 他
キャスト
第1話「黒馬の哭く館」
フレデリック / ジェーン・フォンダ
ウィルヘルム / ピーター・フォンダ
伯爵 / ジェームス・ロバートソン・ジャスティス
第2話「影を殺した男」
ウィルソン / アラン・ドロン
ジュゼッピーナ / ブリジット・バルドー
第3話「悪魔の首飾り」
ダミット / テレンス・スタンプ
日本公開: 1969年
製作国: 仏&伊 レ・フィルム・マルソー他 作品
配給: 日本ヘラルド
あらすじとコメント
前回の「オーケストラ・リハーサル」(1978)は、70分の短編だった。今回もフェリーニの短編が入った作品にする。身の毛もよだつホラー・オムニバス。
イタリア、ローマイギリスの俳優ダミット(テレンス・スタンプ)は、かつては飛ぶ鳥を落とすほどの人気俳優だったがアルコール中毒から評判を落とし、落ちぶれた俳優に成り下がっていた。
しかし、プライドは高いまま。そんな彼に高級車フェラーリ贈呈を条件にイタリアから映画オファーが来た。彼は受諾しイタリアへ行くと、早速、インタビューやプレゼンターとしての仕事をこなす。しかし、得体の知れぬ不安から酒を飲み続け、フェラーリに乗ると夜の道を走り続けた・・・
怪奇作家エドガー・アラン・ポーの三本を映画化したホラー・オムニバス。
フェリーニ作品はラストである第3話。第1話はフランスのロジェ・ヴァディム監督と恋人だったジェーン・フォンダに、姉弟のピーター・フォンダが共演した「黒馬の哭く館」で、金持ち令嬢の鼻持ちならないプライドが、結果、自身を追い込んでいく内容。
第2話は「死刑台のエレベーター」(1957)でクールでスタイリッシュな映像を披露したルイ・マルが、大人気だったアラン・ドロンとブリジット・バルドーを組ませ、善と悪の同一人物のドッペルゲンガーを描いた「影を殺した男」。
そしてフェリーニの「悪魔の首飾り」。
どれも監督の個性がでている。だが、どうしてもアラン・ドロンや監督と恋人関係のジェーン・フォンダというキャストに惹かれて鑑賞した人間が多いだろう。
その視点で考えるとフェリーニ作品のテレンス・スタンプはウィリアム・ワイラーの「コレクター」(1965)には出演しているが、他の2話よりは俳優の線は細い。
しかし、『恐怖』という点に於いてはフェリーニ作品が圧倒的だと感じる。
他のフランス人監督二名の個性とイタリアのフェリーニの作家性を比較すると個人的にはフェリーニに軍配を挙げる。
クリアな画面構成で、アル中俳優の神経質さと情緒不安定な表情が、それだけで観客を「宙ぶらりん」状態にし、彼らしい本来は「コメディ」と「スペクタクル」のイメージがあるサーカスの世界は実は不安と恐怖感に陥らせるという、彼の原体験であった『残虐なる幼稚性』が際立つ内容。
鳥肌が立ち、ラストの絶望的な恐怖感は、暫く眠れなくなるほど「後味の悪さ」を持続させる。
ファンジーだったり、人間の哲学的苦悩を散々見せつけられてきた監督ゆえに、こんな作品も撮れるのかと驚きもした。
しかしそれも、彼の作品が好きで見続けてきた人間からすると、さもありなんとも感じさせるのは流石。
フランス人監督二名が、「沈美的」や「優雅さ」といった何処か斜に構えた大人感を醸して進行するので、頭脳的に構築された恐怖と、フェリーニの子供心が具象化した恐怖感とでは、まったく別物となると容易に比較できるのも、オムニバス映画の利点。
どの話が好きかは個人で別れようが、それも観る側の個性である。個別監督のオムニバスとしては印象に残る作品。