スタッフ
監督:クリス・ヴァー・ヴェル
製作:マシュー・グリマルディ、D・グロドニック 他
脚本:クリス・ヴァー・ヴェル
撮影:ジャージー・ジーリンスキー
音楽:ランディ・エデルマン
キャスト
フィンチ / クリスチャン・スレイター
毒舌ジム / ティム・アレン
テス / ポーシャ・デ・ロッシ
マイコー / リチャード・ドレイファス
サビアン / ビリー・コノリー
マーカム / ルポール
トリップ刑事 / ピーター・マクニール
デラニー刑事 / ビル・マクドナルド
ラファティ刑事 / エリアス・ザーロウ
日本公開: 2002年
製作国: アメリカ ファイアー・ワークス・プロ作品
配給: ギャガ
あらすじとコメント
今回も「映画狂」には堪らないクライム・コメディの佳作を選んだ。個人的には、どれほど映画を見てきたかを試される、昔の惹句ではないが、『今世紀最高』のクライム・コメディだとも感じている。
カナダ、トロントとあるホテルの一室にいた脱獄囚フィンチ(クリスチャン・スレーター)は、部屋のドアを開けた瞬間、額に銃を突きつけられた。
相手は凄腕の殺し屋“毒舌”ジム(ティム・アレン)だった。ジムは薄ら笑いを浮かべるとフィンチを椅子に縛り付けた。「何か面白い話をしろ。出来によっちゃ命を助けても良いぜ」。困惑したフィンチは、宝石強盗と、脱獄と恋の話を始めた。ジムは首を横に振りながら、ありがちだなと薄ら笑いを浮かべた。
だが、話が進むにつれて・・・
映画狂ならシビレる設定と凝った意匠のクライム・コメディの佳作。
脱獄囚の男が殺し屋に捕らえられ、そこから嘘か本当か解らない話を始める。
ところが、殺し屋が映画ライター程度では足元にも及ばない「評論家」的視点で、一々、文句を言ってくるから、まるでプロデューサーと脚本家の企画会議の態を成していくのだ。
映画冒頭はダイナーで、ちょっと頭の弱そうなチンピラ二人が、必死に映画の内容解釈の話をしている。
その映画がバート・レイノルズが出演した異色ドラマ「脱出」(1972)だから、いきなりニヤリとした。
出だしからそれで、以降も殺し屋が一々、旧作映画の名台詞を暗唱し、最後に映画のタイトルと製作年度まで付け加えるから、映画狂の自分のハートを鷲掴みにし続ける。
それでいて、主人公の話も面白く、そちらは真面目なクライム作品として進行させて行く。
要は回想シーンで盛り上がると現実の部屋の場面に戻り、その設定は何だとか、次はこう来るんだろ、と殺し屋が難癖をつけるの繰り返し。
ドジなチンピラ二人組や、犯罪を追う刑事たちや検死官も個性派が揃い、本当にニヤニヤの連続。
しかも、ストーリィも練られていて、まるで昔の名画座で一挙に違う映画を平行して見せられているようでもある。
つまり、6~70年代の映画フリークスなら、どれほど観てきているかを試される内容でもある。
ただ、それがフランス映画的知的階級層嗜好側の挑戦ではなく、あくまでアメリカの娯楽映画なのが楽しい。
そういう意味では、これぞアメリカ映画とも感じる。
何といっても殺し屋役のティム・アレンの存在感が圧倒的で他を寄せ付けない。
本作は映画ライター時代に試写室で初見したが、そのときに映画評論家の「おすぎ」もいた。他は、30代ぐらいの若いライターばかりであった。
冒頭からニヤニヤと体が揺れつつ鑑賞していたのは、おすぎと自分だけであった。
しかもラストシーンで、思わず声を上げて椅子から飛び上がって喜んだのも、おすぎと自分だけ。
その時に痛感した。古い映画など見ていなくてもライターは務まるし、若い感性には合わない作品なのだろうと。
だが、個人的には、その年のベスト・ワンに推したほど大好きな作品。