旅路の果て – LA FIN DU JOUR(1939年)

メルマガ会員限定

画像を表示するにはメルマガでお知らせしたパスワードを入力してください。

スタッフ
監督:ジュリアン・デュヴィヴィエ
脚本:ジュリアン・デュヴィヴィエ、S・スパーク
撮影:クリスチャン・マトラ
音楽:モーリス・ジョベール
セット:ジャック・クロース

キャスト
マルニィ / ヴィクトル・フランサン
カブリサード / ミシェル・シモン
サン・クレール / ルイ・ジューヴェ
ジャネット / マドレーヌ・オーズレ
管理人 / アルキュー
理事長 / ピエール・マニエ
シャベール夫人 / ガブリエル・ドルジア
トニー / トニー・ジャコー
ダニエル / キャビィ・アンドリュー

日本公開: 1948年
製作国: フランス フランシネックス作品
配給: 東和

老優の挽歌で続ける。前回は怪奇映画専門の老優が鍵を握る作品だった。今回は、老優たちが暮らす養老院で繰り広げられる人間の挽歌と呼べる作品を扱う。一般人と違う価値観の人生が鬼気迫る雰囲気で押し寄せる秀作。

フランス、ノルマンディー近郊元俳優たちだけが暮らす私設養老院「サン・ジャン・ラ・リビエール」。

そこに、新しく未だ色男振りを撒き散らすサン・クレール(ルイ・ジューヴェ)が入所してくる。かつて彼に恋心を抱いていた元女優らもいて、俄かにホーム内は騒々しくなっていく。

そこには毒舌家で、まるで駄々っ子のように身勝手な行動を取るカブリサード(ミシェル・シモン)や、曾孫まで20数名の家族を持ち、夫婦で仲睦まじく暮らす者など、多くが生活していた。

そんな中で、ひときわ気高い男がいた。古典劇専門の俳優だったマルニィ(ヴィクトル・フランサン)である。他の入所者とは常に一線を画し、物静かな紳士然とした男だ。しかし、彼だけはサン・クレールの入所を喜んでいなかった。

なぜなら、かつてサン・クレールに、亡き妻を寝取られていたからだ・・・

「俳優」という特殊な職業の老人らが繰り広げる群像劇の秀作。

他人を演じ、観客を魅了してきた元俳優たち。それぞれに悩みや問題を抱えているようだ。

それでも昔を懐かしんだり、ライバルに嫉妬したりと様々である。

そこに享楽的で刹那的なドン・ファン気取りの老優がやってくる。

しかも、入所者の一人の妻を寝取った挙句に、後に彼女が死んだことにも関連していそうでもある。寝取られ男の方は、内心忸怩たる思いがあるが、平静を装い続けるのも職業的な悲しき性ゆえだろうか。

そんな老紳士は、ホーム近くのカフェで働く17歳の小娘に惹かれている。

とはいっても、恋愛の対象としてではなく、かつての彼の名声に興味深々ゆえの優越感的愛情である。

しかし、ドン・ファン気取りが、一瞬にして彼女を気に入り、篭絡にかかるから厄介な展開となる。

そして、毒舌家の男も様々な問題を起こして行く。

更に、入居者らには知らされていないが、ホームが経営に困窮していて、先行きの不安もある。

どうにも『悲劇性』のみが強調されて行く進行。

名優であるが認知度が低いゆえのコンプレックス。様々な主役を演じてきたと豪語するが、その実を誰も知らない男。俳優という職業ではなく、色男である自分に酔っている男。

どの登場人物たちも「いびつ」である。だからこそ、他人を演じられるのだろうと。

後半は、それまでの人物たちの本性が露わになり、絡み合って、更に悲劇性を加速させる。

クラシカルな作品でもあるので、俳優たち全員がオーバー・アクト。だが、それこそが『俳優』である性とも感じさせ、内容と見事にシンクロし鳥肌を立たせる。

心温まるエピソードの挿入が、逆に、嫌な予感をも加速させる。

戦前の黄金期を迎えていたフランス映画の、悪寒が走るほど印象に残る作品である。