スタッフ
監督:エットーレ・スコラ
製作:F・コミテッリ、A&L・デ・ラウレンティス
脚本:E・スコラ、R・マッカリ、F・スカルベッリ
撮影:クラウディオ・ラゴーナ
音楽:アルマンド・トロヴァヨーリ
キャスト
トラヴェン / ジャック・レモン
ヤゼロ / マルチェロ・マストロヤンニ
ラウーラ / ダリア・ニコロディ
カルメリーナ / イザ・ダニエリ
ヴィルジニア / パトリツィア・サッキ
ジュリオ / ブルーノ・エスポジート
マリア / ジョヴァンナ・サンフィリッポ
パスクアリーノ / ファビオ・テノーレ
若い舞台女優 / オルセッタ・グレゴレッティ
日本公開: 1988年
製作国: イタリア マス・フィルム作品
配給: シネセゾン
あらすじとコメント
イタリアのマルチェロ・マストロヤンニとエットーレ・スコラ監督は良作、佳作を輩出しているコンビ。そして今回はアメリカの名優ジャック・レモンが絡む。大国アメリカを揶揄した人間ドラマ。
イタリア、ナポリ
アメリカの大手飛行機メーカーの副社長トラヴェン(ジャック・レモン)は新機種売り込みのためナポリに滞在していた。
そんな彼を突然訪ねてきたヤゼロ(マルチェロ・マストロヤンニ)は、40年振りの再会だと大喜びで抱きついた。驚くトラヴェン。
一方のヤゼロは、相手が何も覚えていないことに驚き第二次大戦直後の進駐していたアメリカ軍の嘱託時代での二人の関係性をとうとうと話した。それでも何も思い出せないトラヴェンは、ナポリ人特有の詐欺行為だと思い、金を渡して追い返そうとした。長い月日はこうも人間を変えるのかとヤゼロは消沈し帰ってしまう。
後日、仕事や妻との離婚訴訟の行詰まり感に苛まれていたトラヴェンは流石に悪いと思い、ヤゼロを訪ねるが・・・
老境の人間的価値観の違いを米伊の国柄対比で描く好編。
出世の代わりに捨ててきたことが多く、今頃になって人生に疲れ絶望しているアメリカ人。方や、図書館で古書の履歴整理を生業とするお人好しのナポリ人。
終戦直後に新聞配送担当で駐留していたことがあり、その時にイタリア人、特にナポリ人は信用できないと刷り込まれている現在はエクゼクティヴのアメリカ人。
一方のナポリ人は自分の妹と結婚の約束をしていたと言い張る。
まったく記憶にないからナポリ人は信用できないと平然と言い放つタイプ。ところが、自分がいない間にアメリカ本社で臨時役員会が開かれ失職すると知り、そこで自分の猪突猛進してきた人生を振り返り、初めて反省する。
そこに失恋で仕事そっちのけで泣いてばかりのイタリア女性通訳も絡み、万事イタリア式の人生賛歌に影響され始める。
ある意味、拝金最優先主義のアメリカを揶揄し、人間らしいライフ・スタイルこそ最高と謳うナポリ人という簡単な対比。
その二人を演じるのがマストロヤンニとレモンなのだから流石に見入ってしまう。典型的なボケとツッコミの関係だが、結局イタリア的人生観が勝ると描いていく。
個人的には初見当時からイタリアに傾倒していたので、世界のナンバーワンと信じて疑わぬアメリカの成り上がり人間が感化されていく展開に溜飲を下げた。
主演のレモンはビリー・ワイルダーの「お熱い夜をあなたに」(1972)でも、ナポリ湾に浮かぶイスキア島で急死した大企業総帥の父の長男として遺体搬送に訪れるが翻弄され、結局イタリア流に感化される役を演じておりイメージが重なる。
それにしてもこの二人の緩急の付いた演技合戦は見事の一言。特にマストロヤンニが発する数々の名言は印象に残るものが多かった。例えば、港の突堤で夕日を眺めながら「ここでいつも夕陽に問うんだ。今日私は陽の輝きに見合う人間でしたかと」。そして深呼吸をして「時間を無駄にするのは素晴らしい」と幸せそうにつぶやく。自分も何度も私生活で活用させてもらった。
新型機の耐久実験を見せられたときは、「何故そんなことをするんだ。人間に同じ事したらどうなると思うんだ」と真剣に抗議する。
生き急いできたエクゼクティヴがのんびり生きる人間の贅沢でやさしい時間に目覚める。
ただし、ラストが些かファンタジーになるので首を傾げるが、それでも個人的にはアメリカ的上昇志向より、人間としての威厳と余裕を優先させたいと大きく頷ける良作だと感じている。