三寒四温で春の息吹。こちらも、ちょっと春めいた気分になった。
少し前この欄で書いた、元は日雇い労務者の街にあったカツカレーの店。バス越しに暖簾が出ているのを見掛けたが、数日後にわざわざ出向いたらシャッタ─が下りていた件。
また夕餉用の安い惣菜を買い求めに出向いた帰りにバスで通過したら、また暖簾がでていた。翌日、神に祈りながら徒歩で出向いた。
結果、営業中であった。暖簾が掛かっているのを見たら、何故か胸が熱くなった。やはり嬉しい出来事なんだよな。
約4か月ぶりの入店。ひとりで切り盛りする親父さんが、笑顔で出迎えてくれた。懐かしいなと、いつもの席に腰掛けながらビールとカツカレーを注文。「閉めたんじゃなかったんですね」
「二ヶ月半ほど入院してましてね」ビールを置きに来て細かい話はカレーをだしてからとばかりに厨房に消えた。嬉しいに尽きる。何せ、去年から閉店のオンパレードで自分の運も尽き果てたと消沈していたから。
ビールを飲みながら店内を見回すと、去年の暮れまで入院していたからか、業者か誰かから貰っていたと思しき壁掛けカレンダーに変化があった。
恐らくは年末に今年分は休業で貰えなかったのだろうか。それなりの大きさで二ヶ月分が見られるタイプ。それを裏返しにして吊るし、白紙部に個性的な文字で横書きで曜日、その下に日付が2ヶ月分。少し横と斜めにズレながらマジックで書いてある。日曜は赤文字なのが微笑ましい。
ちゃんと客に気を遣っている。でも、買わずに手書きで対処してるってことは、今年1年続くかどうかと思っているのかと不安も浮かぶが。
貼りだしてある手書きのメニューにも変化があり、カレー類の値段が100円づつ値上がりしてた。ただし、以前と同じなのは酒類の販売表示がないこと。一見で知らない客には出さないつもりか。
そして変化がなかったのが、厨房入口上部に張ってあるラーメン系の価格表示。一瞬、ワンタン500円を肴にしようかと思った矢先、新規客が入ってきた。地元と思しき40代のラフな格好の男性。親父さんが気付かないので、自分が奥に声を掛けた。
彼もカツカレーを注文。馴染みのようだ。暫くして自分のカレーがでてきて、また厨房に戻った。すると、また違う客がやってきた。
結構、人気店じゃん。その客はカツカレーの大盛。結局、他の人のカレーがでる前にこちらは食べ終わってしまった。会計を頼むと、親父さん少し話したそうな顔をしてくれた。「通院で不定休になりますけど、よければ」やはり好きだ。
こうなると通いたくなる性分。数日後、再度出向いてみた。ちゃんと暖簾が出ていた。
口開けで客はおらず。いつも通りビールとカツカレー。その日は誰も来ずで、少し話せた。
原因は脳で、入院手術は大掛かりかと思ったが、カテーテル手術で済んだ。入院中は廃業も考えたが、閉めてもすることがないし、もう少し続けてみようと。ただ、カレー類だけにして、メニューには麺類も貼り出してあるけど、現在はないと。
仕込んでも出ないし、自分の体調の問題もあり、結局腐るので止めたんです、と。
100円値上げしようが、カレーだけになろうが、飲食出来るだけで嬉しい。不定休になり、来店はギャンブルかもしれぬ。それでも通うと決めた。
外は寒いが晴天の空。人生は春ばかりでないのは先刻承知。でもな、それでも嬉しい春の走り。