スタッフ
監督:篠原哲雄
製作:笹岡幸三郎、細川慶人
脚本:松岡周作
撮影:上野彰吾
音楽:村山達哉
キャスト
木崎敏郎 / 筒井道隆
片桐節子 / 富田靖子
大紙泰司 / 小林薫
小暮秀子 / 百瀬綾乃
吉田雅之 / 田鍋謙一郎
片桐喬 / 橋本功
片桐千栄子 / 入江若葉
スナックのママ / 根岸季衣
おばあちゃん / 菅井きん
離婚しそうな夫 / 鶴見辰吾
製作国: 日本 ポノポ、アートポート作品
配給: スローラーナー
あらすじとコメント
今年初の番外編。クラシックでもなく、有名作でもない、東京の片隅に生きる不器用な人間たちの日常を描く小品にしてみた。
東京、葛飾区堀切。小さな商店街にある中古電気店。そこには、たった一人で店を任され、洗濯機の修理には自信があるという青年の木崎(筒井道隆)がいた。
ある雨の午後、ずぶ濡れになった女性が飛び込んでくる。彼女の名は節子(富田靖子)で、その電気店を営む夫婦の娘で、離婚して出戻ってきたのだ。そんな彼女は、両親が住む本店には行きづらいので、ここに住むと言いだす。困惑しながらも経営者の娘という立場もあって、無碍に断れない木崎。
そんな彼を憎からず思っている向かいのパン屋に勤める秀子(百瀬綾乃)は、明け透けでサバサバした大人の魅力がある節子の存在に内心穏やかではない。しかし節子は、かつて木崎の前に勤めていた『洗濯機修理の達人』と呼ばれた大紙(小林薫)が気になっていた。
元ラジオのDJだった節子は再就職を模索するが、中々上手く行かず無為に日々が流れていった。
ある晩、自転車のライトの修理で親しく口をきく木崎と秀子。何となく、良いムードになった二人は翌日のデートの約束をする。
その後、帰ってきた節子が少し高揚した木崎を見て、ふと声を掛けた。ねぇ、明日デートしない・・・
ナイーブというよりは甘すぎる人間たちの日常を描く佳作。
舞台になるのは東京の東の外れ葛飾区の堀切。今まで「男はつらいよ」シリーズぐらいしか映画に登場しなかった、ある種、場末。
東京23区でありながら、これといった印象の少ない、本当に東京の片隅と呼べる場所。昭和の残り香があるといえば聞こえは良いが、実際は取り残され、忘れ去られたような場所。その上、メインとなるのは中古家電を扱う古ぼけた木造モルタルの電気店。
これだけで、本作の意図のひとつが明確だろう。主人公は洗濯機修理のプロと自負するが、その実、優柔不断な青年。
方や、マイナー・ラジオ局の深夜放送のDJだったバツイチの三十路女。そんな彼女が心ときめかすのが、元は修理の達人と呼ばれながら、現在は借金まみれのタクシー運転手。
皆、どこか舞台の場所同様、忘れ去られた負け犬たちである。そんな人間たちの日常と心の機微。
タイトルの『洗濯機』は 『女性』を表している。映画は洗濯機の修理に没頭するが、修理に失敗する主人公の姿から始まる。つまり、「まかせろ」と言いながら、口先だけの男であると紹介するのだ。
若くしてどこか人生から降りた男。自分でも自覚しているが、認めたくない。そのくせ、出戻りバツイチ女とパン屋の女の子を天秤にかけたりするのだ。しかし、そのどちらにも主導権を取ろうとはしない。
そしてタクシー運転手の中年男や主人公の友人も然り。更には思い込みが激しいだけのバツイチ女の父親も同様である。
ここに、場末感漂う下町という場所の設定と良い、優柔不断な男たちと良い、往年の成瀬巳喜男の世界を連想した。
しかし、女たちも強くはない。登場人物誰もの心が浮遊して着地場所を見出せないでいるのだ。
映画は、段々と『洗濯機』イコール『女性』でなく、それぞれの『人生』として描かれていく。
古い物を修理して使うという習慣から、修理よりも新しいものに買い換えるという使い捨ての時代となって久しい。
だが、主人公はこう言うのだ「ちょっとの修理と休暇で、新品同様になります」と。
また、印象深いのは橋の使い方。舞台の近くに荒川が流れているので、画面に何度も登場するが、主要登場人物のほとんどが橋を渡るシーンがでてくる。
しかも、全員が素直に渡り切る場面はなく、途中で一度は立ち止まる。それが人生であると言わんばかりに。
橋の下を垂直に横切る土手道、建物や背景の前で平行に立つ人物たちといった、丸みのない画面を際立たせる上野彰吾のカメラ・ワークも印象的。
本作は、現在でも活躍する篠原監督のベストであると感じている。ただし、主人公を演じる筒井道隆の関西弁の違和感や、彼を取巻く女優陣にも華はない。
のれない人はまったく相容れない作品であるとも付け加えよう。
だが、個人的には、妙に後ろ髪を引かれる作品である。