スタッフ
監督:アーサー・ヒラー
製作:ポール・ネイザン
脚本:ニール・サイモン
撮影:アンドリュー・ラズロ
音楽:クィンシー・ジョーンズ
キャスト
ケラーマン / ジャック・レモン
グエン / サンディー・デニス
TVの男 / サンディ・バロン
遺失物係 / ビリー・ディー・ウィリアムス
キューバの外交官 / カルロス・モタルバン
ホテルのフロント係 / アンソニー・ホランド
列車の給仕 / ジョニー・ブラウン
警官 / ドルフ・スィート
マレー / グラハム・ジャーヴィス
日本公開: 1971年
製作国: アメリカ ジャレン・プロ作品
配給: CIC
あらすじとコメント
劇作家で脚本家のニール・サイモン。前回の「ふたり自身」(1972)は、シニカルなコメディだったので、今回も同じ系統で選んだ。NYにでてきた夫婦の顛末を描く、とてもコメディと思えない作品。
アメリカ、オハイオ地方で働くケラーマン(ジャック・レモン)の元に、ニュー・ヨーク本社の営業副社長としての栄転が決まったとの連絡が入る。
狂喜乱舞したケラーマンは、妻のグエン(サンディ・デニス)と共に、本社で行われる夫婦最終面接のため、喜び勇んでニュー・ヨークに向け出発。これで、憧れの「ニューヨーカー」になり、大都会での洗練された暮らしが保障されたと。妻だって、田舎から脱出し上流婦人となると夢は膨らむ一方。
盛り上がる二人を乗せた飛行機が飛び立ったが、何と、NYの空港が離発着便混雑のため、上空で旋回しつつの待機をすることに。
更に急激に悪化した天候のため、何と着陸不可となり、ボストンへの回避到着と相成って・・・
大都会の嫌な面ばかりに翻弄される夫婦を描くシニカル・コメディの佳作。
憧れの大都会で、エクゼクティヴとしての将来が決まった田舎者夫婦。ただし、最終面接があり、その時間までに本社に到着しなければならない。
先ず、NYに直接行けないという事態に陥り、それから怒涛のように悲劇が夫婦を襲い続けるという展開。
迂回着陸したボストンでは、当然、飛行機の乗客全員がNY行の列車に殺到するから大混雑で座席はおろか、食事も出来ぬと相成る。
以後も、これでもかとトラブルに見舞われ続けて、最初こそ笑って観ていられるが、やがて、笑うに笑えぬ状況に陥っていく。
日本でも、一極集中と揶揄されるが、それでも、東京なり大阪といった大都会で暮らしたいと思う人間も多い。
閉塞的で中途半端な場所で一生暮らすよりも、夢を見たいと。メディアでの扱いも、日々進歩し、流行を発信し続けるお洒落な店舗等を紹介されれば、そこで、ごく自然に振る舞える自分を重ねる人もいるだろう。
ただし、人口が多いということは、様々なタイプの人間が混在するし、今までの地方での感覚がまったく通じないという状況もある。
今や、世界的有名観光地になった「渋谷のスクランブル交差点」一つをとっても、ぶつからずに渡り切れるかと不安を感じるかもしれない。
それなりに心構えが出来ていれば何ともないだろうが、それが常に、都心のどこに行こうと同じような状況が常態化している。
つまり、想像以上に、そこで暮らすということは雑多なトラブルの発生確率が非常に高いと教えてくれる映画。
制作されたのは、実際にNYの治安が荒れていた時期であり、銃社会アメリカという現実も横たわる。
しかも凝縮された時間に、都会らしいトラブルに見舞われ続けるからコメディなのだが、息苦しくなってくるのも事実。これほど畳み掛けるように災難が続くと、果たして大都会での生活が理想なのかと。
そういった内容を、NYに住む人間を描かせたら天下一品のニール・サイモンが展開させる愉悦。
翻弄される主役のジャック・レモンもサイモン作品の常連だが、何といってもヒステリックになりつつ消沈する妻役のサンディ・デニスが強く印象に残る。
憧れと夢は現実にならない方が幸せかもなと思わせる、シニカルながら面白い佳作。