エルマー・ガントリー/魅せられた男 – ELMER GANTRY(1960年)

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スタッフ
監督:リチャード・ブルックス
製作:バーナード・スミス
脚本:リチャード・ブルックス
撮影:ジョン・アルトン
音楽:アンドレ・プレヴィン

キャスト
ガントリー / バート・ランカスター
シャロン / ジーン・シモンズ
レファーツ / アーサー・ケネディ
モーガン / ディーン・ジャガー
ルルー / シャーリー・ジョーンズ
シスター・レイチェル / パティ・ペイジ
バビット / エドワード・アンドリューズ
ペンギリー牧師 / ジョン・マッキンタイア
ギャリソン牧師 / ヒュー・マーロウ

日本公開: 1961年
製作国: アメリカ ユナイト作品
配給: ユナイト


あらすじとコメント

バート・ランカスター。タフで逞しい肉体を持ち、悪役からアクション、イタリアのルキノ・ヴィスコンティ作品までと幅広い芸域を持つ俳優である。そんな彼がアカデミー主演男優賞を受賞した作品を選んだ。不況下のアメリカで人間の心を鷲掴みにする男を描いた佳作。

アメリカ、中西部口八丁手八丁で、相手を煙に巻きながら、いつの間にか人の心を魅了する家電製品の行商人ガントリー(バート・ランカスター)。しかし、時は不況下で商売も上手く行っておらず、極貧生活での旅の空が続く日常であった。それでも、次々に人を魅了しては、何とか生きている。

そんな彼が安ホテルに泊まった翌日、偶然見かけた美人伝道師シャロン(ジーン・シモンズ)に一目惚れしてしまう。何とかしたいと考えたガントリーは、以後、彼女の伝道場所を追いかける始末。ところが、彼女も一筋縄ではいかないタイプ。となると益々燃え盛る男だから始末に悪い。

何とか、彼女のグループに取り入り、行動を共にし始めた。そこで、元来の性格が鎌首をもたげ、シャロンに、自分で一度講話させてくれと言いだした。戸惑うシャロンだったが、多くの信者が集まった中で、ガントリーは説教を始める。

彼の口の上手さと賢者ぶらない内容に、やがて人々は・・・

見事なる『神がかった』人間ドラマの力作。

気ままといえば、それまでの行商人。常に孤独だが、自分を誇示することだけは忘れない男だ。それを覆い隠すように口八丁で人を煙に巻く。

まるで日本映画「男はつらいよ」のフーテンの寅に重なる主人公。しかも女好きなのも同じ。旅先で見かけた美人に一目惚れするのも、全く同じシチュエーション。

ところが、それからの展開がまるで違う。素直に曝けだすこと忌み嫌う日本人と、ストレートに攻めまくるアメリカ人。

自意識過剰であり、認知欲求が高い主人公は、猛然とアタックを開始し、いつの間にか伝道師としての認知欲求も加速というか、暴走し始める。

彼の弁舌は不況下で禁酒法時代の暗いアメリカ国民に忍び込んでいく展開。生きるために平然と様々な術を身に付けてきたから、黒人教会に入り込んで、黒人霊歌まで歌う。しかも歌唱力があるから、黒人らまで魅了するような男。

当然、彼が惚れる美人伝道師も、心動かされていく。

しかし、どうにも胡散臭い主人公なので、展開も一筋縄ではいかないと想像させる。

果たして、その通りに進行するのだが、登場してくるサブキャラが、主人公とヒロインにどのような影響を与えていくのかというサスペンス要素も垣間見せる。

真面目で美人伝道師をサポートし続ける紳士然とした好人物、歌が上手く、主人公に惹かれているが、足場代わりに利用される歌唱隊の女性、ピューリッツア賞を受賞し、ヒロインに同行取材を続ける新聞記者。そして、主人公の過去を知る売春婦。

主人公に限らず、それぞれの登場人物たちにも闇があり、葛藤がある。その本性が剥きだしになっていく展開に背筋が凍った。

強く感じるのは人間のエゴによる思い上がりと、男よりも女の方が怖いという業の深さ。

聴衆を恫喝したり、なだめすかしたり。下品なハッタリ屋の主人公を演じたランカスターが主演男優賞を受けたのも頷ける力演。

ヒロインを始めとする他の人物も見事に適役。中でも、新聞記者を演じたアーサー・ケネディの見事さには舌を巻いた。

神を蔑ろにし、実生活に追われていた時代。「信仰復興」という名のもとに、宗教とはビジネスかとも訴えてくる作劇に、『神』とは何かを問いかけ、人間から神の使者に成り上がろうと自惚れた人間が、また、嫌でも人間に戻されていく。

それで目覚める人間と、決して夢から覚めない人間もいる。

クライマックスでの地獄を想起させる展開は、2時間半近い長尺であるが、宗教に無感心な自分でも、思わず姿勢を正した。

こちらも主人公の設定とリチャード・ブルックの演出により、催眠術にかかってしまったような感覚に陥る力作。

余談雑談 2016年2月6日
先週土曜の晩、新橋に飲みに出向いた。今年初であり、地元下町から一番の遠出。まったく、直線で6キロの距離である。何とも、今年は地味な幕開けだ。 そんな新橋で、いつも行くのは三軒。その一軒が奇数土曜日の営業だから、それに合わせている。 ところが