奇跡の歌 – LOOKING FOR AN ECHO(1998年)

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スタッフ
監督:マーティン・デヴィッドソン
製作:M・デヴィッドソン、ポール・カータ
脚本:ジェフリー・ゴールデンバーグ、ロバート・ヘルド 他
撮影:チャールズ・ミンスキー
音楽:ケニー・ヴァンス

キャスト
ピレリ / アーマンド・アサンテ
ジョアン / ダイアン・ヴェノーラ
ヴィック / ジョー・グリファシ
マッカナリー / トム・メイソン
ナポリターノ / トニー・デンソン
プッチレッリ / ジョニー・ウィリアムス
アントニー / エドアルド・バッレリーニ
ティナ / クリスティー・カールソン・ロマーノ
ルドウィック医師 / デヴィッド・マーギリス

日本公開: 2002年
製作国: アメリカ S・ティッシュ&P・カータ・プロ作品
配給: MSエンタテインメント

あらすじとコメント

大都会に生きる中年男の孤独と心意気。そこにラブ・ロマンスが絡む。前回の「二人でスローダンスを」(1978)は、ジャーナリストが主役であったが、今回は、ティーンエイジャー女子を虜にした元大人気グループのリーダー。地味ながら、これぞ、埋もれて陽の当たらない映画の秀作。

アメリカ、ニュー・ヨーク’60年代に大人気を博したドゥワップ・グループのリーダーだったピレリ(アーマンド・アサンテ)は、現在、元仲間の経営するバーで、しがないバーテンダーをしている。時々、パーティーなどに呼ばれて、昔の仲間と演奏はするものの、絶対に持ち歌は唄わない。どうやら歌は封印しているようだ。

そんな彼には18歳のミュージシャンの息子と、白血球が減少する病気を患う14歳の娘がいるが、最愛の妻は10年前に亡くなっていた。

以後、ピレリは人生から降り、何を考えるでもなく、ただ生きている男になっていた。子供たちは、そろそろ新しい恋をしても良いんじゃないかと勧めるが、どうにも妻の残影が抜けない。

そんな彼に、娘の担当看護師ジョアン(ダイアン・ヴェノーラ)が声を掛けて来た・・・

40代以上の男なら、どうにも涙を禁じ得ない人間再生ドラマの秀作。

十代の若僧時代、何も知らぬまま全米トップ・チャートの常連となるグループのリーダーになり、以後、急落した主人公。

大人になりかけの長男と重篤の娘。そこに看護師と昔の仲間らが絡む。

実に単純で、一切、奇を衒わないストレートな作劇。20世紀の終わりに、これほど直球な映画が製作されたこと自体に驚くが、古き良きアメリカ映画の残り香が充満し、男、女、家族、仲間たちがいて、誰ひとり悪役が登場しない上、全員が主人公の味方なのだ。

若い頃に栄光を勝ち取り、その後の人生は負け犬であり、挫折の連続。そんな主人公を直接的、間接的に激励する周囲の人間たち。

どうせ、自分なんて、と思っているやさぐれ中年男の主人公に、自身を重ねる観客も多いに違いない。

しかもロックや、派手なパフォーマンスが主流の音楽ではなく、アカペラ的ハーモニーによる音楽パフォーマンス・グループゆえ、アナーキーな私生活をも売りものという暴力がかった破天荒タイプな主人公でもないので、何とも好感が持てた。

そんな主人公の「孤独」と「諦念」が蔓延する心に、やがて一筋の光明が差し、現役の人間としての「威厳」と「喜び」を復活させていく。

カギとなるのは『ドゥワップ』という音楽のジャンル。この音楽に乗れるかどうかで、本作の印象が分れるとも思うのだが、何とも、ノスタルジックで、心に沁みるコーラスと歌詞で、ファースト・シーンから、心が釘付けとなった。

当時、映画ライターをしていた自分は、あまりの感動と興奮に、三度も試写室に足を運んだほど惚れ込んだ作品。

ただし、劇場公開は単館系映画館のレイト・ショーで二週間上演されただけ。つまり、14回しか上映されなかった作品であり、地方では公開すらされなかったに違いない。

何とか本作を紹介したいと、当時連載を持っていた雑誌に掛け合ったが、地味だし、公開スタイルもマイナー過ぎるとして、上から拒否された。以後、どうしても紹介したいと長年思っていた映画である。

監督のマーティン・デヴィッドソンも公開された作品は数少ないし、有名スター主演作や大作など、一切撮っていないので、名の通った人物ではない。

だが、ビデオ発売のみだが、個人的には本作同様、大好きな作品で、マイナー・リーグの野球チームの人間模様を描く「大穴!特攻草野球/万歳スタジアム」(1987 TVM)という、やさぐれ感満載の佳作を輩出している。

本作も、出演陣も大スターなどおらず、内容も音楽も地味で、完全にスルーされた作品。

それでも、自分なりに頑張って人生を生きてきて、中々、他人から評価されず、このまま、ひっそりと人生を終えていくのだろうと漫然と感じている中年以降の男たちは滂沱の涙を禁じ得ないと察する。

本当に誰も知らず、陽の当たらない映画であるが、個人的に本作を紹介し、鑑賞した男たちは、全員が好きだと言い切った幻の秀作である。

余談雑談 2016年2月27日
先立て、所用で後楽園ドームがある水道橋まで出向いた。午前早目のアポだったので、終わったら神保町で久し振りのランチを楽しもうと思いながら向かった。 ところが、所用が思いの外、早く終わりポカンと時間が空いてしまった。流石にこんな時間では、何も開