スタッフ
監督:レティシア・マッソン
製作:ジョルジュ・ベナヨン、フランソワ・クエル
脚本:レティシア・マッソン
撮影:カロリーヌ・シャンプティエ
編集:ヤン・デデ
キャスト
アリス / サンドリーヌ・キベルラン
ブリュノ / アルノー・ジョヴァニネッティ
ジョゼフ / ロシュディ・ゼム
アリスの母親 / クレール・ドニ
出張代理販売人 / ジャン・ミシェル・フェット
人事部長 / ディディエ・フラマン
アリスの父親 / ダニエル・キベルラン
アネット / リズ・ラメトリ
エレーヌ / レティシア・パレルモ
日本公開: 2002年
製作国: フランス CLP、ダシア・フィルム作品
配給: オンリ-・ハーツ
あらすじとコメント
前回の「男と女」(1966)は、以後の恋愛映画に多くの影響を与えた。本作もその一本。寒さを感じさせるフランスの港町と都会で交差する男女の関係を描くのが似ているのだが、そこに存在するのは「大人」ではなく、成長しきれない若い男女。新進女流監督なりの視点が興味深い小品。
フランス、ブローニュ・シュル・メール北仏の港町に住む26歳になるアリス(サンドリーヌ・キベルラン)は、勤めていた缶詰工場で、突然、上司に呼びだされ、いきなり解雇を宣告された。不景気ではあるが、何故自分が対象になったのか思い当るフシはなかった。だが、強く抗議にでたり、情報開示要求などしないタイプだ。だから、不本意ながら受け入れるしかなかった。
当然、職探しを始るが、そう簡単に雇用はされない。久し振りに母親の元を訪ねるが、過去の確執からか、どうも上手く会話が出来ない。しかも彼氏と別れたばかりだ。
何も上手くいかない。今日も面接に落ちた後、立ち寄った昼下がりのカフェで、ひとりで酒を飲みだした。その姿を見ていた男が声を掛けてきた。
何と、彼女を解雇した元上司だった・・・
個性のない若い女性の人生と心の放浪を描く小品。
冬の港町。たった一人の女友だちしかいないヒロインが主人公。彼氏と別れ、仕事を解雇され、母ともギクシャクして上手く行かない。
冬の港の北風がこちらの心にも吹くスタート。
冒頭は、様々な女性が自己アピールし、面接に受かろうとするシーンから始まる。どの女性も饒舌で、自分こそが一番であり、入社させることは意義があると自己主張する。
フランス人らしいというか、それこそが「個性」であり、そういった自己アピールばかりする人間の中でも、更に自分の優位性を主張する。
そこから、ヒロインがいきなり解雇される場面へと転換する。瞬時にして、彼女の「フランス人」らしからぬ性格が浮かび上がる。
そんな性格ゆえ、人間関係は苦手な様でありながら自分探しを模索はしている。何とか現状を打破したいという気持ちも伝わってくる。
しかし、何をどうすれば良いのか分らない。どうしようもない元上司に声を掛けられれば、妻子持ちと知りつつ、且つ、ホテルではなく北風の吹く海辺で関係を持ってしまう。
何とも切なさが際立つ。しかも、元上司は退職金じゃないがと金を渡してくる。こちらの心に、また、北風が吹く。
そこでやっと彼女は、フランス第二の都市リヨンで心機一転を図るために町をでて行く。
全編を通して冬の寒さを感じさせる画面構成。港町と都会。場所は違えど、人の心の切なさが忍び込んでくる、フランス映画独特のタッチ。
そのリヨンで、自棄気味の工事人夫の青年が登場してきて、『少しだけ』人生が動き始めるには始めるが、ドラマティックなことは、何も起きない映画である。
さりげない、まるで底冷えのする北風が人の心の中で浮かぶ孤独感をなぜるように揺らしていくだけの映画ではある。
クロード・ルルーシェの「男と女」(1966)と似たような寒さを倍加させる二つの場所が描かれるが、若い女性が主人公ということもあり、どちらかというと、アメリカン・ニュー・シネマの秀作で、田舎町からひとりで大都会へ来て、更に心に北風が吹く「愛はひとり」(1971)に近い印象でもある。
原題は「持つものと持たざるもの」。これはヘミングウエィ原作の「脱出」と同じ。この作品では「生きる目的」とか「自信」を持っているかどうかという意味である。
もっともストーリィよりも、人間の心の襞の移り変わりを丹念に描写する作品なので、万人受けする作品ではない。
有名スターはでて来ないし、物語の起伏もないから途中棄権したくなる人もいるだろうか。これはフランスという国民性や風土を理解していないと、単調なだけのつまらない印象を受けると思われるからである。
女流監督特有の理屈っぽさが見え隠れして、些か感性が先走り過ぎる点も見受けられるが、主役のサンドリーヌ・キベルランの瑞々しいリアル感が補っていると感じた。
フランス映画特有の雰囲気が好きな人間には、まだまだ、この作風が残っていたかと沁みるものがある作品。
一方で、日本でも「女性ひとり酒」や「自己責任」ゆえの孤独など、以前よりも社会進出が当たり前になった女性のほうが男よりも心に沁みやすいかもしれない。
決して傑作ではないが、何かの折に、ふいに思い出すような味わいの作品。