マレー死の行進/アリスのような町 – A TOWN LIKE ALICE(1956年)

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スタッフ
監督:ジャック・リー
原作:ネヴィル・シュート
脚本:W・P・リプスコーム、リチャード・メイソン
撮影:ジェフリー・アンスワース
音楽:マティアス・セイバー

キャスト
ジーン / ヴァージニア・マッケンナ
ハーマン / ピーター・フィンチ
高木軍曹 / タカギ
菅谷大尉 / チャン・ヴァン・ケー
ホースフォール嬢 / ジーン・アンダーソン
フロスト夫人 / マリー・ロアー
エレン / モーリン・スワンソン
エビー / ルネ・ハウストン
フリス夫人 / ノラ・ニコルソン

日本公開: 1956年
製作国: イギリス ヴィック・フィルム・プロ作品
配給: BCFC


あらすじとコメント

第二次大戦における日本軍の戦い。前回は、無人島で繰り広げられる日米たった二名のサバイバル・ドラマであった。今回も、ある意味で同じ。ただし、強制的にサバイバル的状況に追い込まれるのは一般人である。日本人として複雑な心境に陥る作品。

マレーシア、クアラルンプール1942年、侵攻した日本軍が近付いてきたため、ジーン(ヴァージニア・マッケンナ)が勤める会社全員にシンガポールまで直ちに避難するよう命令が来た。だが、彼女は退避直前、支配人の夫人からかかってきた電話で、幼子三名を抱えたまま、遅々として進まない荷造りを手伝いに行くことにした。

それにより、皆と一緒に避難することは出来なくなったが、支配人の車で家族共々、遅れて出発と相成った。ところが、途中で車が故障してしまい、立ち往生してしまう。途方にくれる一行だが、偶然通りかかったイギリス軍の車両に発見された。その車両には知り合いも多数いて、一安心するジーン。

港に到着したが、船は出航した後。一般人避難者総勢35名は、もう一日、そこで待つ事になる。ところが、すぐに船がやって来た。予定より早くて助かったと喜ぶ一行であったが、何とそれは日本軍艦艇。

あっという間にイギリス軍守備隊は全滅し、ジーンらは捕虜になって・・・

実話に基づく、一般婦女子らが体験する戦争の悲惨さを訴える作品。

日本軍の捕虜になる一般人たち。男は直ぐに収容所送りとなり、家族は引き離される。

しかも、金品を没収され、女子供は、徒歩で80キロ離れた場所まで移動せよと命じられる。

真っ先に浮かぶのは『男尊女卑』の思想であり、しかも、自決せずに捕虜になることは『卑しい行為』という、当時の日本の価値観。

そういった観念の日本軍からすると、強制労働もさせられない女子供など『お荷物』でしかなく、『口減らし』の対象である。

つまり、主人公らは、一日に一回だけ粗末な食事を貰うだけで、ひたすら、半島をあちらこちらと徒歩移動させられる展開となる。

しかも、湿地帯や焼けた砂利道を裸足での移動。当然、弱った者は死に、マラリアに感染しても薬もない。毒ヘビに噛まれ絶命する子供もでてくる。出口のない、まさに「死の行進」なのだ。

それでも、生きようとする婦女子たちの姿が痛ましい。

映画は、それだけでは悲惨すぎるからか、ヒロインと捕虜であるオーストラリア軍兵士の恋模様を絡めてくる。イギリスとオーストラリアという、同じ人種ながら、こんなことでもない限り出会わなかったであろう男女が、悲惨な状況下で、お互いを生きる拠り所にする。

ひたすら歩かされ続けるヒロイン一行。一方のオーストラリア兵は、トラックの修理及び運転という労務で、何度かすれ違う。その都度、お互いが人目を憚って逢瀬を重ねる。

そこで男は、自分が住むオーストラリア中央部の何もない田舎町「アリス・スプリングス」という場所を懐かしむ。

それが、タイトルの由来だ。凄惨な状況下だが、ヒロインにとっては生まれ故郷のイギリスとは全く違う場所であり、マレーシアより更に遠方の土地に、夢を重ねる。

しかし、男が彼女らを助けようとしたことから、悲劇へと転換していくのだが。

作劇としては、終戦後、生き残ったヒロインが相続した遺産をマレーシアの田舎で井戸掘削費用に当て、現地を訪れるという回想形式で始まる。

悲惨な事実だけに、暗い内容で進行するが、冒頭から、ある意味で、ヒロインは死なないという、何らかのハッピー・エンドを迎えることを示唆するのである。

シニカルで自虐的作品が多いイギリス戦争映画の中で、少し異質だと感じた。

ステレオ・タイプな描かれ方であるが、悪役である日本軍のほとんどが、日本人が演じているのではないのが救いだと思ったが、その中でも、ヒロイン一行にたった一人で随行する軍曹を演じた「タカギ」という俳優が印象に残る。

イギリス製のシニカルな戦争映画「戦場の七人」(1960)で、本作とは逆に、英軍斥候隊の捕虜になる日本軍兵士を演じている。

この二作以外に見たことがない無名の俳優だが、戦争に駆りだされた、か弱さと優しさが滲む市井の男という存在感が漂い絶品。

本作でも、彼の存在が、日本人として見ていくには、かなり中和作用が効いていると感じた。

現代の自分が見ると、日本軍が、単純に徹底的な野蛮人という描かれ方をしているとは感じられない。

それなのに、何故、本作がカンヌ映画祭に出品しようとして、日本政府が猛抗議して、取り止めさせたのか、理解に苦しむ。

しかし、それも時代というものか。

余談雑談 2015年3月7日
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