オレゴン大森林/わが緑の大地 – NEVER GIVE AN INCH(1971年)

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スタッフ
監督:ポール・ニューマン
制作:ジョン・フォアマン、フランク・カフィー
脚本:ジョン・ゲイ
撮影:リチャード・ムーア
音楽:ヘンリー・マンシーニ

キャスト
ハンク・スタンパー / ポール・ニューマン
ヘンリー / ヘンリー・フォンダ
ヴィヴ / リー・レミック
リーランド / マイケル・サザラン
ジョー・ベン / リチャード・ジャッケル
ジャン / リンダ・ローソン
アンディ / クリフ・ポッツ
ギボンズ / チャールス・タイラー
ジョン / サム・ギルマン

日本公開: 1972年
製作国: アメリカ ニューマン、フォアマン・カンパニー作品
配給: CIC


あらすじとコメント

前回の作品で自惚れの強いスポーツマン大学生を演じたリチャード・ジャッケル。ロバート・アルドリッチ映画の常連で、日本のどうでもいいSF大作「ガンマー第3号/宇宙大作戦」(1968)」や「緯度0大作戦」(1969)など、むしろ『天晴れ』といえるほど様々な映画の助演を務めてきた。実はご贔屓俳優の一人であるが、個人的には本作こそ、彼の代表作と呼べると確信する作品を選んだ。

アメリカ、オレゴン林業を営むスタンパーの一家。家長は先立て、不覚にも木から落ちて左腕を骨折しているヘンリー(ヘンリー・フォンダ)。そして長男のハンク(ポール・ニューマン)とヴィヴ(リー・レミック)夫婦と、従弟のジョー・ベン(リチャード・ジャッケル)の家族が一緒に暮らしていた。

現在、周囲の林業仲間たちはストライキを決行中であったが、一家だけは従わず、勝手に仕事を続けていた。組合側からすれば『スト破り』であり、何とか協力させたいが、一切妥協せず、己らの価値観を貫き通している。当然、周囲から孤立し、一家の女性陣らは、あまりの強情振りで、些か困惑しているフシもあった。

それでも、少ない仲間たちと林業に精をだし続けていたある日、髪を伸ばしたヒッピー風の若者が訪ねてきた。訝しがる一家だが、実は10年近く前に家をでた家長ヘンリーの後妻の連れ子リーランド(マイケル・サザラン)だった。

あまりにも変貌した姿を見た彼らは・・・

フロンティア・スプリットの名残りを感じさせる一家を描く人間ドラマの佳作。

自分らの価値観で生きる家族。周囲との共同歩調よりも、己らが仕事できることが嬉しいというか、当然という信念で生きている。

だからスト参加を呼び掛ける仲間たちにも、笑顔を浮かべながらダイナマイトで追い返すほど。かといって、仲間たちも一家のことを嫌いなわけではない。要は、大した学もなく、本能というか、『男』としての生き様が優先しているだけだ。だが、女性側には温度差がある。

そこに、マリファナで逮捕され、行き場のなくなった末弟が帰ってくる。しかも、その末弟は、家長の後妻が、前の夫との間に産んだ連れ子で、主人公である長男とは腹違いである。

その母とニューマン扮する長男が、禁断の関係を持っていたことへの恩讐を引き摺り、母が死んだので、家をでていたのだ。

彼からすれば当然であるが、他方、大自然の中で生まれ育った男らには、男は力仕事で稼ぎ、女性は家を守るという公然のルールがある。

娯楽もなく、黙々と大自然相手に生きていく人間たちには、選択肢が少ないのである。だからか、禁断の関係にも陥りやすいし、それでも「家族」として平然と生きていけるのであろうか。

その上、本作における「家長」は絶対君主ではない。鷹揚さと精神的支柱としての重厚感を兼ね備えた人物として描かれるのだ。

ただし、あくまでも実体験での経験値から来るものであり、教育によって育まれた知性はない。

だから、そんな一家の中には男女間の埋めがたい溝が、常に流れているのだ。後妻と長男の関係を知ってか知らずか、家長にしろ、長男の妻にしろ、それぞれが大人として振る舞いはする。

そこに、大自然の中ではあるが、閉鎖的空間にしか生きられない人間の業が、男女間の温度差の中で流れ続けていると感じさせるのだ。

『学』よりも『力』という単純でたくましい男たちに、時流に乗った、か細い全く林業に向いていない風情の大学出の青年が絡んで、どこか緩衝材になりながらも相反する構図が構築されていく進行。

周囲からの『孤立化』を恐れぬことによる『孤独』。

やがてその一家を悲劇が襲う。知性のない人間たちは、素直に叫喚し、絶望感に打ちひしがれる。

それでも、一歩も引かずに前進あるのみという、単純だからこその『生存証明』が際立つラストには、とても俳優であり、監督第二作目とは思えないポール・ニューマンの力量が浮かび上がる。

当時、クリント・イーストウッドも監督業に進出し、俳優兼監督の両雄と比べられた。

ところが、全く作風が違う。ニューマンの場合、アクターズ・スタジオ出身者らしい、『知性先行』を感じるが、奇を衒わずに、当時流行っていたアメリカン・ニュー・シネマの影響が感じられる作風。

アメリカの低学歴の人間たちの生き様を、これぞアメリカ人の原型という姿勢で描いていく作品。

当然、主役を張るニューマンが圧倒的に上手いが、他の役者陣もインスパイアされたのか、全員が見事である。

無学や男女の価値観の相違という、いいようのない人間の孤独と埋められない溝を際立たせる非常にバランスが取れた人間ドラマの佳作である。

余談雑談 2015年9月5日
気が付けば9月である。学生たちは長い夏休みが終わり、新学期。海外では、学年が変わる新年度でもある。 で、こちらも何か新しいことを始めてみるかという気になった。まさか、学生に戻るわけにも行かないので、今までに苦手で避けてきたことに挑戦するか。