スタッフ
監督:加藤泰
製作:沢村国雄
脚本:三村晴彦、加藤泰
撮影:丸山恵司
音楽:鏑木創
キャスト
川島正 / 佐藤允
春子 / 倍賞千恵子
橋本圭子 / 中原早苗
毛利美佐 / 菅井きん
安田孝子 / 應欄芳
王操 / 沢淑子
笠原本部長 / 松村達雄
亀岡巡査 / 大泉滉
クリーニング店店主 / 太宰久雄
その妻 / 石井富子
製作国: 日本 松竹作品
配給: 松竹
あらすじとコメント
俳優の佐藤允の訃報に接した。何故か、テレビの報道では『和製ブロンソン』と紹介されていたので驚いた。『和製ウィドマーク』の間違いだろうと。それとも、リチャード・ウィドマークの名前は、既に、二度死んだのだろうかと別な意味で悲しくなった。
なので追悼作品を考えていたら、今度は千石規子の訃報まで飛び込んできた。彼女は黒沢明作品の常連であり、映画やTVドラマを見ている人間で、彼女の顔を見たことがない人はいないであろうと思われるバイプレーヤーであった。では、そんな二人が共演した作品とも思ったが、どうにも、ここで扱うほどパッとしない作品たちなので、結局、佐藤が主演した怪作にしてみた。
東京。とある深夜、豪華マンションに住む高級クラブのママ安田孝子(應蘭芳)が、激しく暴行された挙句に、強姦され、ナイフでめった刺しにされて殺される事件が発生した。
孝子の葬式に、彼女の友人と思しき、一流企業の重役婦人である橋本圭子(中原早苗)、女流評論家の毛利美佐(菅井きん)ら、四名の女性たちの姿があった。警察は、犯行現場で四名の住所氏名がなぐり書きされたメモを発見していたので、彼女たちに事情を尋いた。
素知らぬ振りをする四名だが、心中は穏やかではなかった。何故なら、孝子を含めた五人には、秘密にしておきたい出来事があった・・・
気色悪いほどの残虐性をクールさを伴って描く、ある種のノワール映画。
映画は冒頭、ヒッチコックの「サイコ」(1960)における、シャワー・ルームでの殺人シーンを彷彿とさせる、ショッキングで眼を覆いたくなるシーンから始まる。そこで主役である犯人の姿をハッキリと写しだし、只者ではないと印象付ける。
そんな主人公は、実は殺人犯として指名手配の身の上で、時効まで一年という背景が描かれていく。
14年も潜伏し逃げ伸びていた男が、何故、女性を殺し、更に四名の女性を狙うのか。
一応のミステリー・タッチなのだが、カット・バック等で、すぐに原因は割れる。起因する出来事は理解できなくはないが、逃亡殺人犯とはいえ、そこまでの執念を傾けることかと考えたが、それでは本作は成立しないであろう。
兎に角、本作の主要な登場人物は、皆が『いびつ』だ。逃亡殺人犯の主人公は当然として、殺害されていくセレブを気取る女性たち、本来ヒロインである倍賞千恵子演じる食堂の女店員も、スネに傷持つ身の上。
これほど感情移入しにくい人物のオンパレードの映画も気色悪い。現代では「女性が強くなった」と言われ、『オヤジ化』やら、『肉食女子』とか、『草食男子』という造語まで定着してきているが、本作で描かれる人物たちは、ある意味、その走りとも呼べるだろうか。
内容としては、続々と女性たちが殺害されていくのであるが、当然、警察側は、何ら、彼女らと接点が浮かばない犯人像に辿り着けないという展開になる。
こちらは何故、連続殺人になるのかは知っているので、興味は謎解きよりも、誰がどのように残虐に殺されていくのかという、「怖いもの見たさ」的方向に行ってしまった。ゆえに、中には嫌悪感を催す観客も多いだろうと感じる。
スキャット調で冷たさを際立たせつつ恐怖感を扇情する音楽や、陰湿で冷凍庫のような画面構成。内容からすれば、完全なるピンク映画系マイナー会社の「エログロ作品」である。
しかし、極端なロー・アングルや、大胆な構図の挿入など、加藤泰監督のシュールで、グロさが強調されながらも、どこか様式美を感じさせる手法には、感じ入ってしまった。
本来、東映で時代劇や任侠映画をメインに撮ってきた監督であるが、独特のセンスがあると感じる。
とはいっても、作品のよってムラがあるのも事実ではある。
しかしながら、何と言っても、本作で一番驚いたことは、構成に山田洋次の名があること。「男はつらいよ」シリーズに代表される、松竹の喜劇や人間ドラマを輩出している監督であるが、本作のような特異性を持つ作品に名を連ねているとは、とても興味深いことである。
ある意味、カルト映画であるが、深夜、いくつかのシーンを思いだして、瞬間、鳥肌が立ち、寝つけなくなるような映画であり、カルト的信奉者が付くだろうと推察できる作品。