スタッフ
監督:スチュアート・ローゼンバーグ
製作:ロバート・フライヤー
脚本:スティーヴ・シェイガン、デヴィッド・バトラー
撮影:ビリー・ウィリアムス
音楽:ラロ・シフリン
キャスト
デニス / フェイ・ダナウェイ
ミラ / キャサリン・ロス
アンナ / リン・フレデリック
エーゴン博士 / オスカー・ウェルナー
シュローダー船長 / マックス・フォン・シドー
モリス / ベン・ギャザラ
レモス / ジェームス・メイソン
ホセ / オーソン・ウェルズ
マックス / マルコム・マクダウェル
日本公開: 1977年
製作国: アメリカ ITCエンターティメント作品
配給: 日本ヘラルド映画
あらすじとコメント
奇才オーソン・ウェルズ。制作、監督、脚本を兼ねた傑作、怪作とあるが、今回は、敢えてチョイ役出演作にした。オールスター・キャストによる重厚なドラマだが、アメリカなりハリウッドが、どのような立ち位置かをハッキリと解らせてくれる作品。
ドイツ・ハンブルグ。第二次大戦の開戦前夜1939年5月のこと。客船SSセントルイス号が約1000名の乗客を乗せ出港した。目的地はキューバ。乗船客は、ベルリン大学教授エーゴンと妻デニス(フェイ・ダナウェイ)、ハウザー夫人(マリア・シェル)などで、全員がユダヤ人だ。彼らは、ナチスの台頭により迫害が起き、身の危険を感じての海外退避であった。
寒いドイツから、陽光輝く新天地キューバでの新たなる生活に胸をときめかせる人間もいたが、多くの船客たちは、将来を不安視していた。
その頃、キューバ国内では政治的駆け引きが起きていた。当初、難民受け入れを宣言していたキューバの大統領は、あくまで対外的なパーフォマンスでの発言であり、そもそも狭い国土に、一度、受け入れると次々とユダヤ人がやって来るという国民感情もあったからだ。船はキューバに到着したものの、土壇場で政府から入国拒否を宣言されてしまう。船内では泣き叫ぶ人間やら、将来を悲観し自殺する人間まででてしまう。
大実業家のホセ(オーソン・ウェルズ)や、救済機関代表モリス(ベン・ギャザラ)らの努力も虚しく、出港命令が発令された。
やむなく客船は、アメリカを目指そうとするが、米政府からも入国拒否をされて・・・
迫害を受けるユダヤ人たちが、時代の波に翻弄される姿を描く人間ドラマ。
ナチスによるユダヤ人迫害が強化されていた時期。だが、戦争はまだ始まっていない。当然、世界は戦争を回避したい。各国は微妙なスタンスに置かれ、揺れていた時期。
そんな中、ナチスは、ユダヤ人を乗せた客船が世界中から入国拒否をされることによって、「世界中の嫌われ者」というイメージを植え付けようという意図の下、プロバガンダとして利用された実話。
ゆえに非常に暗く重い内容である。それをオールスター・キャストで描く。
先行きに不安を増幅させている船客の人間模様と、彼らを何とかしようとする地上での政治的駆け引きが相互に描かれる。
アクションは皆無だし、歴史的背景をある程度、知らないと付いて行きづらく、只々、長く感じる類の作品。
映画としては、僅かばかりのハッピー・エンドを迎えるが、歴史は更に残酷であったというテロップが流れる。
それほど、「流浪の民」として、歴史上迫害を受け続けたユダヤ人だが、艱難辛苦を乗り越えてきたという、ナチスとは逆の「プロパガンダ」を感じた。
しかも、ナチスの横暴さや冷酷さを直截的に描かず、運命と時世に翻弄される市井の人間を描くことによって、一定の距離感を作っている。
役者陣では、乗客らの先行きを心配し続けるドイツ人船長役のマックス・フォン・シドーが圧倒的な印象であった。
それと、キューバにいる娘キャサリン・ロスから、売春で得た仕送りを貰い続け、やっと再会できると思っていた母親マリア・シェルが娘の実態を知って愕然とする薄幸さが印象的。
他には元弁護士役のオスカー・ウェルナーが、やはり、客船での人間ドラマを重厚に描いた「愚か者の船」(1965)に重なって見えて奇妙な感覚に陥った。そのウエルナーが「愚か者の船」で演じた役は、本作ではマルカム・マクダウェルかなとも感じた。
数奇な運命を受け続けたユダヤ人を深謀遠慮に褒め称えたような印象を持ったのは自分だけか。
それにしては当時から、あまり高評価を受けていないとも感じる大作。