スタッフ
監督:ステーヴン・スピルバーグ
製作:リチャード・D・ザナック、デヴィッド・ブラウン
脚本:ハル・バーウッド、マシュー・ロビンス
撮影:ヴィルモス・ジーグモンド
音楽:ジョン・ウィリアムス
キャスト
ルー・ジーン / ゴールデイ・ホーン
タナ─警部 / ベン・ジョンソン
スライド巡査 / マイケル・サックス
ポプリン / ウィリアム・アザートン
マッシュバーン巡査 / グレゴリー・ウォルコット
ジェサップ巡査 / スティーヴ・カナリー
ルービー夫人 / ルイーズ・ラザム
ノッカー / A・L・キャンプ
ノッカー夫人 / ジェシー・リー・ファルトン
日本公開: 1974年
製作国: アメリカ ザナック&ブラウン・プロ作品
配給: ユニバーサル、CIC
あらすじとコメント
名バイプレーヤーのベン・ジョンソン。今回はヴェテラン保安官役で登場。訳あり夫婦の逃避行を複雑な心情で追尾する役だが、彼ならではの存在感が光る好編。
アメリカ、テキサス刑務所に入獄しているポプリン(ウィリアム・アザートンン)の面会日に妻のルー・ジーン(ゴールディ・ホーン)がやって来た。驚くポプリン。何故なら、彼女も収監されているはずだったからである。
そんな彼女は一足早く釈放され、二人の間に生まれた子供を引き取りに行ったが、両親が犯罪者で収監中ということもあり、二歳の子供は児童福祉委員会の命令でロサンジェルスに里子にだされていた。怒り心頭のルー・ジーンは、脱獄し一緒に子供を奪還に行こうとまくし立てた。怖がるポプリンだが、彼女が持ち込んだ衣料で、面会者に紛れて脱獄に成功する。
偶然、面会に来ていた老夫婦の車に便乗し走りだしたが、余りにも低速走行のため、スレイド巡査(マイケル・サックス)のパトカーに呼び止められた。老夫婦が車外にでて対応していると、車を奪い、逃走する二人。
慌てて追跡するスレイド。何とか逃げ切ろうとする二人だが、結局、事故を起こし、万事休すと思われたそのとき・・・
無学な若夫婦がまき起す大騒動の顛末を描く秀作。
どうしても自分が腹を痛めて出産したわが子に会いたい女性が、気弱な亭主を懐柔し、更には人の良い勤務9ヶ月目の若手警察官のパトカーをジャックし、目的地であるLAのシュガーランドに行こうとする。
当然、警官を人質にパトカーを奪われた警察はメンツ丸潰れである。かといって、いきなり銃を乱射しての解決は避けたい指揮官の警部。というよりも、警部は、どこかバカな若夫婦に感情移入している節もある。
映画は、牧歌的で、コメディ的要素を散りばめ、パトカー集団が、ただ追尾する展開と相成る。
何とも、心地良いリズム感だ。そんな若夫婦を応援する市井の人間たちがお祭り騒ぎを起こしたり、逆に、単純に銃で人を撃ちたいだけの輩も登場してくる。
緩急が付いた作劇で、カー・クラッシュや派手な銃撃戦などが何度も登場してくるが、あくまで、どこか牧歌的なムードが支配し続ける。
それは、これが1969年に起きた実話であり、その5年後に製作された作品で、関係者が皆、存命中ということもあろうか。しかも、実在の人物を描く手法として、無学だが、凶悪な犯罪者夫婦ではないこともあり、このような作劇になったと思われる。
邦題に「激突」と謳っているのは、本作がステーヴン・スピルバーグの監督作品であるから。
ご存知の方も多いだろうが、劇場公開されたヒット作「激突!」(1971)は、実はTVムーヴィーであり、本作こそが、スピルバーグの劇場長編デビュー作である。
なので、関連付けるために、このような混乱する邦題を付けたのに違いない。しかし、モンスターのような、巨大トラックが、追い越しただけの乗用車を徹底的に追いつめるという内容とは真逆であり、監督の優しさと慈愛に満ちた作品に仕上がっている。
単に頭の弱い母親が周囲の男たちを振りまわす内容とも取れるが、それでも、気弱な亭主は兎に角、人質にした若い警官や、彼女らをただ追尾するだけに留め、打開策を考えるヴェテラン警部などの男たちをも、どこか虜にしていくのだ。
アメリカの地方で娯楽も少なく、情報量も少ない時代に生きる、真のある意味、無学な市井の人間たちの行動をも優しく包み込みながら、それでいて、こちらの感情を掴んで来るスピルバーグ演出には脱帽である。
しかし、スピルバーグは、本作製作後の翌年、「JAWS/ジョーズ」(1975)を発表するのである。
当時、リアルタイムで全作を見てきた人間としては、恐ろしい才能を持つ若手が台頭したと思ったものだ。
しかし、個人的には、未だに初期作品の中では、群を抜いて本作が大好きである。
これほど優しさに満ちた作品は、そうはないから。