スタッフ
監督:デヴィッド・ミラー
製作:ロバート・アーサー
脚本:リチャード・ブリーン、F&H・エフロン
撮影:ラッセル・メティ
音楽:フランク・スキナー
キャスト
ニューマン軍医大尉 / グレゴリー・ペック
ライボウィッツ伍長 / トニー・カーティス
フランシー / アンジー・ディッキンソン
トムキンス伍長 / ボビー・ダーリン
ブリス大佐 / エディ・アルバート
ガヴォーニ伍長 / ラリー・ストーチ
ウィンストン大尉 / ロバート・デュヴァル
ブロジェット中尉 / ジェーン・ウィザース
ペイサー大佐 / ジェームス・グレゴリー
日本公開: 1964年
製作国: アメリカ ユニバーサル作品
配給: ユニバーサル
あらすじとコメント
多重人格に限らず、精神を病んだ人間。今回は、そういった人間たちを真正面から治療する精神科医の苦悩を描いた作品。『精神病』は、第二次大戦下という状況では、中々、理解し難いジャンルであったようだ。
アメリカ、西南部。コルファックス空軍基地内の第七病棟。そこは戦争で精神を病んだ多くの患者が収容されていた。
ニューマン軍医大尉(グレゴリー・ペック)はそこの主任であり、日夜、患者らの治療に従事していた。しかし、司令官は、戦場で不足している兵士補充のため、一刻も早く戦場へ返したいと願い、中には、単なる臆病者や仮病の兵士が多いのではないかと疑う将官までがいた。
そんな中、変わり者で、大尉の当番兵ライボウィッツ伍長(トニー・カーティス)は、逆に、悩みのない人間の方がおかしいと言うような男。しかし、学はないが人間の気持ちを汲み取る才能には長けており、大尉も彼にだけは、患者らに好きに接することを許可していた。
患者には、元司令官だったブリス大佐(エディ・アルバート)、綬勲までした英雄のトムキンス伍長(ボビー・ダーリン)、早発性痴呆症を患ったウィンストン大尉(ロバート・デュヴァル)らがいた・・・
様々な精神病患者を治療する人間たちの苦悩を描く作品。
戦争で精神に異常をきたした人間たち。そんな彼らを何とか治療したいと願う主人公。しかし、完治は戦場への逆戻りでもあるというジレンマを抱えている。
それでも前向きに、彼らに接する。しかし、そんな軍人たちの収容施設のある基地の司令官は、精神が脆弱ゆえであると理解を示さない。
当時、この司令官のような価値観なり、見方をする人間も多かったに違いない。それほど単純には、理解されにくいポジションであったのだろう。
当然、現在ほど医療も発達していないし、『心理カウンセラー』などと一般的に認知されていない頃でもある。更に、現在では差別用語として使用できない類の言葉で表現されていた人間たちでもある。
そんな患者らを時には諭したり、投薬によって治療して行く。
メインとなる患者は3名。何故、彼らがそのような状況になったかを紐解いていったり、理解しない司令官らに、わざと同席させたりしながら原因を解明していくスタイルでの進行。
当然、戦場での悲惨な体験によることなので、暗いストーリィが語られる。
それだけでは暗い社会派ドラマになるので、トニー・カーティス扮する医師でも何でもないが、人心を上手く感じ取り、明るく処理して行く兵士が緩和剤として描かれる。
中盤までは、割と深刻に進行し、途中で死者まででてしまい、無力感に苛まれる主人公を尻目に、カーティス扮する兵士の描かれる割合が増加する。
更には、コメディ・リリーフとして、精神病棟なのに、何故かイタリア兵の捕虜たちが登場したりして来る。
当然、イタリア人らしいステレオタイプによってであり、一層コメディ色を強める。
確かに重くて暗い内容をそのまま描いては、当時は観客に理解されずらいと感じたのだろう。
それに俳優陣もそこそこ豪華である。主役のペックは本作の前年「アラバマ物語」(1962)でアカデミー主演男優賞を受賞した直後であり、同作品で共演したロバート・デュヴァルも、難しい役どころを見事に表現している。
当時、割と悪役が多かったエディ・アルバートも記憶に残る力演を見せるし、主人公の恋人役アンジー・ディッキンソンも色気がある。
ただ、精神科の治療という暗くて難しい内容だけに、コメディ色を強めたり、程々の役者を揃えたからからといって、本作が成功しているかどうかは別であるが。
当時のハリウッド映画の表現としては、それが限界だったのだろうと思うしかない、少し残念で消化不良が残る作品。