スタッフ
監督:J・リー・トンプソン
製作:モート・エイブラムス
脚本:ベン・マドー
撮影:テッド・ムーア
音楽:ジェリー・ゴールドスミス
キャスト
ハサウェイ / グレゴリー・ペック
ケイ / アン・ハサウェイ
シェルビー将軍 / アーサー・ヒル
ベンソン / アラン・トビー
スン教授 / ケイ・ルーク
シェロトフ / オリ・レヴィ
ティンリン / ジーニア・マートン
毛主席 / コンラッド・ヤーマ
イン / エリック・ヤング
日本公開: 1969年
製作国: アメリカ アーサー・P・ジェコブス・プロ作品
配給: 20世紀フォックス
あらすじとコメント
グレゴリー・ペック主演作にした。今回は精神科医ではなく、科学者。しかも、ノーベル物理学賞を受賞した秀才であり、何と、元スパイという訳の解らん設定のサスペンス。
イギリス領香港。物理学者のハサウェイ(グレゴリー・ペック)が、アメリカ大統領から、直々に依頼された密命を受け、香港に降り立った。その任務は、中国が密かに開発した「特殊酵素」の方程式を入手することだ。
特殊酵素とは、酷寒のチベット山岳地帯で、小麦やパイナップルが栽培できるというもの。つまり、これが製品化されれば、食料に関しては、中国の独占市場となってしまう。これには、敵国であるソ連も脅威を感じ、今回の作戦はイギリスと三か国共同で行われるのだ。
しかも、その酵素の量産化に関与していると思われるのが、彼とは旧知の仲である中国のスン教授。しかし、国交がない中国に、そう簡単に入国できるはずもない。
スン教授と旧交を温めるとの目的でビザの発給を申請するハサウェイ。すると、何と、中国政府から簡単に査証が発給されて・・・
何とも荒唐無稽なスパイ・アクション作。
ノーベル物理学賞受賞者にして元スパイ。しかも、旅立つ前に、恋人に内容を打ち明けるような男。
ある意味、ジェームス・ボンドを意識した原作なのだろうか。しかし、本作の御都合主義というか、あり得ない設定として、いきなり登場してくるのが「小型の発信機」。
それは飲み薬と同等の大きさなのに、主人公の声を拾い、発信するのだ。しかも主人公の血圧やら心拍数までデータとして送り続け、窮地に陥った時には心理的状態まで分析してくれる。
それらの情報は、通信衛星を通して基地に送信される。
では、それをどこに取り付けるのかというと、何と、耳の後ろ側の頭蓋骨のない部分に埋め込むのだ。
これには驚いた。当然、中国側も主人公がスパイ行為をするであろうと推察し、アタッシュ・ケースやら、ベルト、靴と色仕掛けをメインにして調べたりするが発見できない。まさか、体内に埋め込まれてるとは夢にも思ってないのだろう。
当時としては斬新なアイディアであったのだろうが、あまりにも、あり得ないので失笑した。
しかも、中国に潜入後、お目当ての旧友が僻地にいるというので、公安警察長官らとそこへ向かう途中、何と、待っていたのは中国の指導者である毛沢東主席である。
そこで繰り広げられるのが、冗談にも程があるだろうと、思わずツッコミを入れたくなる「ピンポン外交」である。これには呆れて、茫然とさえしてしまった。
こう書いてくるとコメディかと思う方も多いかもしれないが、至って、本作は真面目なスパイ映画である。
中国系の美人たちがボンド・ガールよろしく登場してきたりするのだが、ペック御大ではアクションなど出来るはずもなく、ショーン・コネリーのようなセクシーさもない単なる中年男。まあ、物理学者なので、到仕方ないかもしれないが。
それにしても、当時のポスターの派手な絵柄とグレゴリー・ペックと監督J・リー・トンプソンの三回目のコンビ作とくれば、いけないとは思いつつ期待した自分。
何せ、ペックとトンプソンのコンビは「ナバロンの要塞」(1961)と「恐怖の岬」(1962)という捨てがたい作品を輩出したコンビだ。
当時、劇場に足を運び、若気の至りだと落ち込んだ想い出がある。それが、やっとDVD化され、どれほど印象が変わるかと思い、40年振りに再見した。
香港の扱いも中途半端だし、中国は未知の国であったので、当然、セットの建物や人物描写等、ステレオ・タイプなのは仕方ない。
それに、どう見ても中国には見えない風景など、アジア人としては、絶望的な気分になった。
いっそ、コメディとして製作されていれば、それなりに面白い作品に仕上がったであろう。
当時の感性は間違っていなかったと再確認できたことが唯一の収穫であろうか。