スタッフ
監督:ロナルド・ニーム
製作:ロナルド・ニーム
脚本:ロビン・エストリッジ
撮影:エルスワース・フレデリクス
音楽:リン・マレー
キャスト
シャリフ / ユル・ブリンナー
アーメッド / サル・ミネオ
ライラ / マドリン・ルー
ヒューストン / ジャック・ウォーデン
タハール / アンソニー・カルーソ
ハッサン / ジェイ・ノヴェッロ
救急車運転手 / レオナード・ストロング
ジープの将校 / クリス・マンソン
ジョンソン / ジェームス・メイソン
日本公開: 1962年
製作国: アメリカ パラマウント作品
配給: パラマウント
あらすじとコメント
今回もユル・ブリンナー主演作。モンゴル・ロシア系とユダヤ・ロシア系を両親に持つ彼にすれば、前回演じた『コサック』はお手のものであった。そんな彼が今回演じるのは中東系。なるほど、こちらも妙に似合っていると感じる手堅いアクションの佳作。
アラブ某国反政府活動家のシェリフ(ユル・ブリンナー)は、別の収監先へ護送される途中、彼を熱狂的に支持する大学生アーメッド(サル・ミネオ)らの手により、奪還された。その時、一緒に護送されていたアメリカ人ヒューストン(ジャック・ウォーデン)ら3名も、シェリフに同行することを決める。
作戦は、石油会社の社用救急車を奪い、灼熱砂漠を超え、隣国に脱出させることであった。その計画を聞き、驚くヒューストン。なぜなら、彼は、その石油会社の社員で、会社の金を横領して服役中であったからだ。しかし、そうと決まれば、社内情報に詳しいヒューストンの助言は絶対でもある。
彼らは、会社に潜り込み、まんまと救急車を奪取するが、中に看護師のライラ(マドリン・ルール)が残っていたことから・・・
アメリカ製ながら、非常にイギリス的作劇で胸躍るアクション快作。
クセのある男たちと女性看護師が救急車に同乗して、決死の砂漠越えを敢行する。この内容は、ほぼ誰もご存じないだろうが、個人的に大好きで、このメルマガの第一回で扱った、思い入れの強いイギリス映画の佳作「恐怖の砂」(1958)と、まったく同じ設定である。
しかも制作されたのは、その三年後。ほとんどパクリといっても良いかもしれぬ。
だが、内容を知ったのは、「恐怖の砂」を見てから暫く経ってのことで、本作を見ていた先輩映画ファンから、こちらも面白いぞと聞かされていた。
ところが、その時には日本での上映権が終了し、幾つもの名画座で繰り返し上映されていたポスターだけが、妙に印象に残っていて、見ておけばよかったと、後悔していた作品。
つまり、つい先立てまで、本作は未見であった。
それが、やっとアメリカでDVDが発売され、小躍りして購入し、字幕なしであったが鑑賞した次第。
故に、多少肩入れ気味かもしれない。
主人公は愛国運動の指導者。つまり反政府側で、彼を慕う大学生の他、一緒に脱出を図るのは横領犯のアメリカ人、非情な殺人者、不貞を犯した妻を殺害した小心者のアラブ人。
途中から加わるのが看護師女性と救急車の運転手。
そして検問所突破を皮切りにアクションが加速していく。当然、水やガソリンの欠乏が起きたり、サスペンス要素も盛り込まれる。
とはいっても、そこは当時の映画。鷹揚さがあるので、多少、まどろっこしさを感じたのも事実。
それでも、途中、ゲスト出演的にジェームス・メイソンがでてきたり、ジープの追跡、飛行機による襲撃などメリハリのついた進行。
監督は、後に「ポセイドン・アドベンチャー」(1972)を輩出するロナルド・ニームのアメリカ進出第一作。
彼は、それ以前にも、イギリス時代に、傑作とは言わないが、スマッシュ・ヒット的アクション・スリラーを送りだしている職人系監督で、以前は、映画編集に始まり、脚本家、プロデューサーとこなしてきた人物である。
何気ない画面の切り取りをテンポ良く繋いで、冒険スリラーとして見事なリズム感で進行させる。それこそ、王道のイギリス映画の香りである。
だが、「恐怖の砂」の監督で、渡米後「ナバロンの要塞」(1960)を作るJ・リー・トンプソンや、本作のロナルド・ニーム、「007」シリーズの初期群を作ったテレンス・ヤングやルイス・ギルバートらが、イギリスから流出していった時期でもある。
その後、急速にイギリス映画の冒険スリラーが衰退していくのである。
そういう意味で、本作も、実は感慨深い作品なのだと再確認した。
大掛かりで派手なスペクタクル・シーンなどなくても、充分に楽しめる娯楽活劇であり、いかにもイギリス人が好みそうな異国情緒溢れる佳作。