スタッフ
監督:マブルク・エル・メクリ
製作:ジャニ・チルトゥゲス、パトリック・キネ、他
脚本:マブルク・エル・メクリ
撮影:ピエール・イヴ・バスタール
音楽:ガスト・ワルツィング
キャスト
ヴァン・ダム / ジャン・クロード・ヴァン・ダム
ブルージェ警視 / フランソワ・ダミアン
気の短い強盗 / ジネディーヌ・スアレム
警備員姿の強盗 / カリム・ベルカドラ
中年の強盗 / ジャン・フランソワ・ウォルフ
窓口係 / アンヌ・パウリスヴィック
離婚弁護士 / ジョン・フランダース
ビデオショップ店員 / ヴィンセント・レクイヤー
タクシー運転手 / ジェミー・デ・シェ
日本公開: 2008年
製作国: ベルギー他、 ゴーモン作品
配給: アスミック・エース
あらすじとコメント
今回もジャン・クロード・バンダム主演作。それまでのアクション映画とは全く違う、シニカル過ぎて、笑うのも困惑する『自虐パロディ』作品。
ベルギー、ブリュッセルハリウッドの有名アクション・スターであるヴァンダム(ジャン・クロード・ヴァン・ダム)が、生まれ故郷の街角にタクシーで乗り付けてきた。
何か、急いでいるようだ。偶然、目撃したレンタル・ビデオ屋の店員は大騒ぎ。すぐに彼に近づき、記念撮影を要求する。愛想よく応じるヴァンダムだが、どこか焦燥感が漂っていた。騒ぎ立てる店員を他所に、郵便局に入っていくヴァンダム。
すぐに戻るというので待つことにした店員は、彼を乗せてきた女性ドライバーに彼の人となりを尋き始めた。ところが、女性ドライバーは、「嫌な奴よ」と言い放ち、口論になってしまう。
偶然、通りかかったパトカーの警官が仲裁に入ると、郵便局の中から銃声が響いた。驚く一同だが、警官はすぐさま郵便局へ向かう。その警官の面前で、局のシャッターが下ろされ、玄関近くの窓を覗くと、焦った形相のヴァンダムが、窓の扉を閉める姿を目撃。
まさか、地元が産んだハリウッド・スターが・・・
何とも変わった意匠で展開するシニカル・コメディ。
ハリウッド・スターが、さえないプライベートをさらけだし、アクション・スターとしても年齢的に限界を感じているという、妙なリアリティある役柄を自身で演じる、何とも面白い設定の作品。
シニカルで、笑うに笑えない設定でもあり、逆にリアリティがあるというのが、どこか泣かせる展開。
観る側は、まさか、地元が生んだ大スターが強盗立てこもり事件を起こすとは信じまい。それは劇中の地元住人らも同様である。
タネ明かしは、すぐにわかる。ヴァンダムは犯人ではなく、人質となったのだ。
成程、内容としてはスパイスが効いている。
映画は、冒頭、いかにもヴァンダムお得意の空手アクションが駆使される映画撮影シーンで幕を開ける。
しかも、ワンカット撮影である。その時、既に加齢の所為で息も絶え絶えで、NGとなる。
冒頭から、ニヤリとさせられる。続いて親権を争う裁判シーンで、娘に嫌われているという展開。
まったく良いところのないプライベートであると見せてくるのだ。そして立てこもり事件へとシフトしていく。
誰もが、スクリーン上の彼をダブらせている。実際の犯人たちなど、映画同様、得意の空手アクションで木端微塵にしてくれるはず。
しかし、そういう単純な期待をさせないための冒頭シーンなのである。
珍妙であり、リアリティがあると感じるだろう。
だから、素直に笑えないし、逆に頑張れと応援したくなるのだ。
そこに、斜に構えたヨーロッパ映画らしい、シニカルさが際立つ。
劇中、香港映画界出身のジョン・ウー監督をくさしたり、新作をステーヴン・セガールに取られたといった、映画ファンなら思わず薄ら笑いを浮かべるセリフも多々、登場してくる。
更に面白いのは、実際の犯人グループの一人がヴァンダムの大ファンであること。
実際にあこがれのスターに直接会えて、映画における持説を披露させたり、それが妙に当たっているから面白いのだが、そんな犯人が、どのように絡んでくるのかといったサスペンスも喚起されていく。
劇中映画のような、ヴァンダム自身がこちらに向かって延々と心情を吐露する場面など、脚本なのか、自身の心底の感情なのかと複雑な心持ちにもされる。
何とも奇妙でシニカルな作劇とストーリィ展開は、最後まで、こちらを心底笑わせてくれない、何とも困った作品なのであるのだが、個人的にはアメリカ映画への批判として立派に成立していると感じた。
嫌いじゃない映画だ。