スタッフ
監督: ジャック・スマイト
製作: ソル・C・シーゲル
脚本: ジョン・ゲイ
撮影: ジャック・プリーストリー
音楽: スタンリー・マイヤーズ
キャスト
ギル / ロッド・スタイガー
キャサリン / リー・レミック
ブランメル / ジョージ・シーガル
ブランメル夫人 / アイリーン・ヘッカード
ヘインズ警部 / マーレイ・ハミルトン
カッパーマン / マイケル・ダン
マロイ / マーティン・バートレット
ベル / バーバラ・バックスレイ
モナハン / ヴァル・ヴィソーリョ
日本公開: 1970年
製作国: アメリカ S・C・シーゲル・プロ作品
配給: パラマウント、CIC
あらすじとコメント
今回もロッド・スタイガー主演作。アクの強い役者にして、個性派。そんな彼の様々なコスプレ姿が見られる異色のサイコパス映画。
アメリカ、ニュー・ヨーク。牧師姿のギル(ロッド・スタイガー)が、とあるアパートに住む中年未亡人宅を訪れた。そのとき階段で、すれ違ったキャサリン(リー・レミック)は、彼に独特なオーラが漂うのを感じた。
その直後、ギルは未亡人を絞殺。バスルームに遺体を引き入れると、額に口紅で『キスマーク』を書いた。
発見された死体を見たブランメル刑事(ジョージ・シーガル)は、異常性格者だと推察するが、すぐに別な未亡人の死体が発見され、それにも同じように額にキスマークが書かれていた・・・
「母性」に対する二人の男の葛藤を軸に描かれるサスペンス映画。
映画は冒頭から、ロッド・スタイガーが殺人犯であると見せる『倒錯』スタイルで始まる。つまり、警察が真犯人を捜すという正統派サスペンス映画ではない。
そして、彼は毎回変装し、中年未亡人に取り入っては殺人を繰り返していく展開。その都度、カツラを被り、話し方やアクセントを変え、ドイツ系、同性愛者風と、別人になりきることに快感を覚えていながら、殺害方法はまったく同じというサイコパス。
それでいて犯人は、偶然、見かけた刑事に奇妙な親近感を持つ。お互いにマザー・コンプレックスなのである。
そして、主人公は刑事に直接電話をし、別人に成り切ったまま、自分が犯人であると告げ、会話を楽しむ。その執拗なこだわりは、刑事の自宅の電話番号まで調べだし、自分らは「同じ穴の狢」だと真剣に話す。
しかし、当然、現実世界ではあくまで紳士として、周囲から認知されている。
一方で、若い刑事は、犯人探しとは別に、目撃者である女性に好意を抱き、何とか彼女に取り入って行こうとする。
そんな刑事の母親は、自分らがユダヤ人であることを誇りに思っていて、何かと息子を束縛しようとしたりするなど、刑事と母親のやり取りが面白く、妙にコメディっぽい場面が挿入される。
その所為か、本来、猟奇殺人である主人公の犯行シーンでも、思わず失笑が込み上げる。
奇妙なシンクロニシティゆえだ。逆を言えば中途半端とも取れる作劇スタイル。敢えて、そういった観る側に「宙ぶらりん」な感慨を抱かせるスタイルに挑戦したジャック・スマイト演出は買える。
ただし、それが成功しているかは別問題であるのだが。
主人公の異常性を際立たせようとすればするほど、他の登場人物たちとのギャップが生まれる。
ただ、刑事の母親という存在が、主人公同様、どこか「いびつ」で、失笑を催させつつ、ゾッとする存在として描かれる。
それが 主人公と刑事の母親が妙にダブって見るえるという寸法である。「マザコン」がもたらす悲劇。
若い刑事も、このままでは将来、主人公のような人間になっていくと推察させる恐怖。しかし、そうはならないかもしれない、と思わせるために、目撃者である女性を絡めてくるのだが、その女性も一筋縄ではいかないと感じさせるタイプなのだ。
そこに「連続殺人」とは別次元での恐怖が発生する。男は「子供」であり、女性に対する思慕の情は、結局は、「母親」に集約されていく。
設定自体は面白いし、当時としては先見性があったのだろう。だが、どうしてもスマイト監督自身が、そこまでの先見性を具象化する力量がなく、モタつくのが残念。
それにしても、主演を張ったロッド・スタイガーの怪演は、印象的だ。