スタッフ
監督: ノーマン・ジェイソン
製作: ウォルター・ミリッシュ
脚本: スターリング・シリファント
撮影: ハスケル・ウェクスラー
音楽: クィンシー・ジョーンズ
キャスト
ティッブス / シドニー・ポワチエ
ギレスピー署長 / ロッド・スタイガー
ウッド巡査 / ウォーレン・オーツ
コルバート夫人 / リー・グラント
エンディコット / ラリー・ゲイツ
パーディ / ジェームス・パターソン
シューバート知事 / ウィリアム・シャラート
ママ・カレーバ / ベス・リチャーズ
コートニィ / ピーター・ホィットニー
日本公開: 1967年
製作国: アメリカ ミリッシュ・カンパニー作品
配給: ユナイト
あらすじとコメント
今回もロッド・スタイガー主演作。しかも、かつて悪役専門であった彼が、その個性を生かしたキャラクターでアカデミー主演男優賞を受賞したサスペンスを絡めた人間ドラマの秀作。
アメリカ、ミシシッピィ。とある真夏の深夜、小さな田舎町「スパルタ」の街角で、この地に巨大工場を建設に来ていた会社社長が後頭部を殴打され、死亡しているのが発見される。
発見者は、一人で巡回中のウッド巡査(ウォーレン・オーツ)だ。すぐさま、ギレスピー署長(ロッド・スタイガー)に連絡を入れ、医師も呼ばれた。医師は死後一時間ほどしか経過していないと言うと、署長は、近くのビリヤード場や駅を調べろと命令。
ウッドが駅に行くと待合室にたったひとりでいた見知らぬ黒人ティッブス(シドニー・ポワチエ)を発見。その場で確保すると警察へ戻ったが・・・
黒人蔑視の南部の田舎町で起きた殺人事件を描く秀作。
純然たる差別が横行していた南部の田舎町。そこで起きた殺人事件。地元の小さな警察では手に余る事件だ。
住人たちの教育レベルは低く、だからこそか、酒に溺れ、黒人差別することで鬱憤を晴らしているような場所。そこに、近所では誰も着られない高級なスーツに身を包んだ黒人が、たったひとり駅の待合室にいる。当然、『余所者』である『黒人』の通り魔的な犯行だと直感する警察。だが、実際の彼は都会育ちの切れ者の『黒人』エリート刑事だったことから、事件解決に協力していく羽目になっていくのだ。
その黒人刑事は、一瞬にして、地元住人たちの『人間』としてのレベルの低さを見抜き、逆に「上から目線」で対峙していく。
そんな自分より高給取りで、頭のキレる『黒人』の出現に、劣等感を持ってしまう警察署長。しかも、彼とて、白人でありながら「権力の犬」として扱われているのだ。
しかし、被害者の夫人から、犯人逮捕がなければ、工場建設は白紙に戻すと脅され、嫌々ながら、適当に協力を要請する姿が滑稽であり、物悲しさまで醸しだす。だが、黒人に協力を要請したことで、今度は仲間や町民からも反感を買ってしまうのだ。
そうった行程が絶妙に面白い。しかも、単純で直情型の警察署長は、誤認逮捕を繰り返すという始末。どこかユーモラスなキャララクターをイヤミたっぷりに演じるロッド・スタイガーの演技は見事で、アカデミー主演男優賞受賞も頷ける名演である。
しかし、主役はあくまでエリート黒人刑事のシドニー・ポワチエである。そんなポワチエも本作の4年前「野のユリ」(1963)でアカデミー主演男優賞を受賞していて脂の乗り切った時期である。
この両者の演技合戦は息を呑むほど素晴しい。
虐げられてきた黒人。だが、そんな世間から伸し上がった黒人。そして、いかにも地元以外の場所を知らない偏屈な南部男。それぞれが自らの役を理解し、演じている妙味。
殺伐として、諦念感を漂わす黒人たちと自堕落で、偏見の塊である白人たち。そこに吹き起こる一陣の風。しかし、そこに流れるのは、清涼感ではなく、熱風なのだ。
息詰まる閉塞感と汗臭さを平行して感じさせる展開。だからこそ、ラストで描かれる二人の演技に、ホッとするのだ。そこで、やっと暑いながらも、別な「熱さ」と「清涼感」が流れる。
主役二人の他にも、クセのある俳優が妙技を見せ、気だるい空気感を切取る絶妙のカメラ・ワークやクィンシー・ジョーンズの音楽も、頭に焼き付く。
サスペンスとしても上手くまとまっているし、社会派作品としても機能する良品である。