スタッフ
監督:トム・グライス
製作:ロバート・チャートン、アーウィン・ウィンクラー
脚本:ハワード・クライツェク、マーク・ノーマン、エリオット・ベイカー
撮影:ルシアン・バラード
音楽:ジェリー・ゴールドスミス
キャスト
コールトン / チャールス・ブロンソン
ワグナー / ロバート・デュヴァル
アン / ジル・アイアランド
ホーキンス / ランディ・クェイド
マーナ / シェリー・ノース
ソーサ / フォーグ・モレノ
J.V. / エミリオ・フェルナンデス
ハリス・ワグナー / ジョン・ヒューストン
ケーブル / ポール・マンティ
日本公開: 1975年
製作国: アメリカ チャートン‐ウィンクラー作品
配給: コロンビア
あらすじとコメント
ロバート・デュヴァル出演作品。ただし、主役ではなく脇役出演にして、どこか微妙な神経質さをだしている娯楽アクション映画。
チリ、サンチャゴ。ある日、突然、アメリカ人のワグナー(ロバート・デュヴァル)が、妻アン(ジル・アイアランド)の面前で、警察に逮捕された。メキシコで起きた殺人事件の容疑者としてだが、どう考えても合点がいかない。
しかし、メキシコの裁判所は彼を有罪と認定し、懲役28年という信じ難い判決を下した。すぐさま刑務所に収監されるワグナー。
何とか彼を救いだしたいアンはアリゾナで小さな民間航空を営むコールトン(チャールス・ブロンソン)に、相談を持ちかけるが・・・
いかにもB級感が溢れる単純な娯楽アクション作品。
無実の罪で投獄された亭主を何とか脱獄させようとする妻。雇われるのは海千山千のパイロットである。
そんなパイロットが度重なるアクシデントや妨害にもめげずに亭主を救出しようとする。
ストーリィ自体は単純である。それはそれで、何ら問題はないのであるが、割と重要な物語の設定部分が端折られ、それなりにでも納得できる落とし所さえが省略されるのだ。ストーリィの整合性を重要視する観客であれば、呆気に取られるであろうし、見終わっても不完全燃焼になると思われる。
確かに、ヒッチコックは、ストーリィ・テリングさえしっかりとしてれば、切っ掛けとなることは忘れると言った。
しかし、本作では、間違いなく重要な『切っ掛け』なのだ。それが理解できないと、進行上、どうしても違和感を引きずりながらの鑑賞になる。何せ、そのカギを握る役を名監督でもあるジョン・ヒューストンが演じているのだ。しかも本人は、腹に一物ある、かなりの『タヌキ』として、嬉々と演じている。
そんな彼の息のかかったと思しき、登場人物たちも、単なる部下なのか、もしくは請負稼業かといった、どのようなスタンスなのか、誰もハッキリしないままの進行。
映画館で見たのは一度きりで、かなり昔。今回、扱おうとDVDで鑑賞しなおしたのだが、当時とは別バージョンなのか。もしくは、英語オリジナルの台詞では何らかの示唆があるやもしれぬが、DVDの字幕を追うだけでは、まったく判然としない。
当然、先読みや、描かれない背景を推理しながら映画を楽しむ観客も多い。ただし、自分らの推理が、どのようになるのかは知りたいはずである。当たるのか、外れるのか。
つまり、本作をそれなりに堪能しようと思ったら、ストーリィを忘れ、いかに脱獄させようとするかのアクションだけを追い、更に、単純に仲の良い夫婦であるブロンソンとジル・アイアランドがどれほど素敵かと感じるために楽しむべき作品であるともいえようか。
何度も失敗を繰り返し、それでも、めげない妻とプロである男の心意気は買える。当然、その双方の役を演じる夫婦のための映画なので、二人は熱演。
ただし、ロバート・デュヴァルは、役を咀嚼しきれず、もしくは混乱さえしているかのような迷演ぶり。しかし、後に名優となって行くデュヴァルを語る上で、逆に『反面教師』として外してはいけないとも感じる。
他には、ブロンソンの相棒役のランディ・クェイドは、女装まで披露して興味を引くし、メキシコ人といえば、この人、というエミリオ・フェルナンデスもいつも通りで泥臭く汗臭い。
そんな中で、本作で一番、光り輝くのはブロンソンの旧知の仲で保安官の妻役を演じたシェリー・ノース。
どれほどの人に認知されているかは疑問であるが、個人的には、60年代中期から70年代にかけて活躍したB級専門の「はすっぱクィーン」だと位置付けている。本来は美人だが、微妙に崩れた感があり、知性よりも痴性のフェロモンを放出している。
ジョン・フランケンハイマー監督と名コンビであったバート・ランカスターの、意外なほど静かな佳作「さすらいの大空」(1969)や、B映画の傑作「突破口!」(1973)、同じくB級映画の金字塔で、本作にも出演しているデュヴァル主演の「組織」(1973)など、彼女以外では考えられない、独特のオーラを持った女優。
本作も彼女の脂の乗った時期の作品でもあるので、彼女が掻っ攫うのも無理からぬ話。
ストーリィ的には、尻切れトンボ感が否めないが、ゴロンと横になって、ボーっと見れば、それなりに楽しめる娯楽作ではある。