先立ての入院前のこと。
父の命日に、去年に引き続き、元社員がたったひとり、手土産を持ってやって来た。その時、自分はいなかったのだが、母は、未だに義理堅く焼香に来てくれるのは彼だけだ、とまた感激していた。自分としては、独居老人である母親を気に止めての来訪でもあると思っている。
もう半世紀以上も前に、集団就職で鹿児島から来た方。子供だった自分も、随分と可愛がって貰った。
退職の理由もハッキリと覚えている。店を一軒任されていた、その人自身には、何の問題もなかったが、辞めざるを得ない事態が起きた。父も、引き止めることも出来ずに、経営者として、無念の思いをしたと後に語っていた。どちらにも忸怩たる思いがあったに違いない。
「ALWAYS 三丁目の夕日’64」の三作目が現在、公開中である。舞台は東京オリンピックだという。その方が父の会社にいた時期と重なる。こちらも当時のことは、鮮明に覚えているが、どうしても見る気になれない。
どうにも、単純にノスタルジックな気分に浸れないからだ。
あくまで、当時を現実に知らないスタッフやキャストたちが、フルCGで再現される世界で活躍するものであり、前2作も見たが、人間ドラマもあるにはあるが、設定や俳優、全部が薄っぺらだし、ファンタジー度が強過ぎて、好きになれなかった。
こちらにはもっとリアルであり、決して良い思い出だけではないことも甦ったから。
元社員の方は、映画を見たのだろうか。もし見たのなら、どう感じているのだろうか。聞きたくもあり、聞きたくもなし。
でも、きっとそれだけ出来たお方だ。あれはあれで懐かしいですよと言うに違いない。それだけでも、自分は到底敵わない。