バルカン超特急 – THE LADY VANISHES (1938年)

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スタッフ
監督:アルフレッド・ヒッチコック
製作:エドワード・ブラック
脚本:シドニー・ギリアット、フランク・ローンダー
撮影:ジャック・コックス
音楽:ルイス・レヴィ

キャスト
アリス / マーガレット・ロックウッド
ギルバート / マイケル・レッドグレイヴ
ハーツ博士 / ポール・ルーカス
ミス・フロイ / デイム・メイ・ウィッティ
トッドハンター / セシル・パーカー
トッドハンター“夫人” / リンデン・トラヴィス
カルディコット / ノートン・ウェイン
チャータース / バジル・レッドフォード
マトーナ男爵夫人 / メリー・クレア

日本公開: 1976年
製作国: イギリス ゲインズボロー・ピクチャーズ作品
配給: IP


あらすじとコメント

前回の「ミュンヘンへの夜行列車」(1940)と一対としての作品であり、しかも傑作。コメディ・リリーフの英国人コンビが全く同じ役柄で登場し、主演女優も同じだが、こちらは何故か、役柄が違う。脚本家も同じだし、列車が舞台となるも同じ。だが、決定的に違うのが監督である。

中欧の小国バンドリカ。時は風雲急を告げる戦争前夜。ゾルネイ駅近くで雪崩が発生し、国際列車は臨時運休していた。駅近くの安ホテルは一夜のベッドを求める人々でごった返していた。そんなホテルに、富豪のワガママ娘アイリス(マーガレット・ロックウッド)が、ロンドンでの結婚式を目前に控え、独身最後のパーティーとばかりに、この地での休暇を楽しんでいた。

そのホテルには、若くてどこか、お調子者の民族学者ギルバート(マイケル・レッドグレイヴ)、イギリス人で、この地に6年も住み、家庭教師をしているミス・フロイ(デイム・メイ・ウィッティ)らが、同宿していた。

翌朝、除雪作業が終り、国際列車が開通した。しかし、乗り込もうとした直前、駅舎二階の窓から鉢植えが落ち、アイリスの頭を直撃する。何とか乗車するものの、気を失うアイリス。

意識が戻った彼女を、鉢植え落下時に一緒に居たミス・フロイが食堂車へ誘った。お茶を飲み、コンパートメントへ戻ると、落ち着いたアイリスは再び眠りに着く。

だが、眠りから覚めるとミス・フロイの姿が列車から消えていて・・・

英国時代のヒッチコックの代表的傑作。

気の良さそうなイギリス中年女性が、走行中の列車から忽然と姿を消す。しかし、主人公のヒロイン以外、誰もその女性の存在を否定するという、いかにものスリラー・サスペンス的進行。

映画ファンなら、この手の設定は、どこぞで見たぞと思うに違いない。確かに最近では「フライト・プラン」(2005)など数多くの映画やTVムーヴィーで置換された内容の、そのオリジナルである。

冒頭で、雪崩により、列車が運休している様を模型で描き、駅舎近くのホテルにズーム・インするまでをワン・カットで見せるという、いかにもヒッチコックが好きな手法で始まり、ストーリィの進行に必要な英国人たちをコミカルに紹介して行く。

実にリズミカルで心地良いタッチ。ワガママな富豪のお嬢さん、どこかトボけた民俗学者、訳アリの弁護士カップル。そして、「ミュンヘンへの夜行列車」でも同じ役を演じるクリケット好きの男性コンビ。その全員がイギリス人という設定。そこに、この映画の重要な鍵がある。

コメディ要素満載の集団人間ドラマの態でスタートするが、雪崩の晩、ホテルの軒下で唄う男性が、絞殺されるというシーンから、映画はゾクゾクとする変調を遂げる。

明けて翌朝、ヒロインが怪我をする場面でも、狙われたのは、彼女ではなく別人と解る描き方。そして列車内で、忽然と婦人が消えるのだ。

観客が素直に解る進行にして、先読みを楽しむ。ホテルで登場した人物たちの他に、列車内で初めて登場してくる胡散臭い人物たち。このあたりも解りやすい設定である。しかし、先出の人物たちも、何故か婦人の存在を否定する。

だが、こちらは、その理由を知っているのだ。非常に解りやすい設定にして、さて、どうなるのだろうかと先読みを楽しむ。

ヒッチコックらしさ満載の演出もさることながら、何と言っても、脚本を書いたシドニー・ギリアットとフランク・ローンダーのセンスが抜群である。

この映画の為に、わざわざ創造したという『バンドリカ語』。それは後に、ギリアット自身が監督するスリラーの傑作「絶壁の彼方に」(1950)での架空の言語『ヴォスニア語』に発展して行くし、外科医が絡むのも似たような設定であり、逃げ場のない列車内でのサスペンスという点では、先週、ここで紹介した「ミュンヘンへの夜行列車」にも繋がる設定だ。

本作を含めた、この3本はクラシック映画ファンを自称するなら、絶対に避けてはいけない作品群だと位置付ける。

そのどれにも関連性を感じ、ワクワク、ゾクゾクする興奮が詰まった傑作だから。

ただ、「絶壁の彼方に」では、クリケット好きの英国人コンビが登場しないのが残念ではあるのだが、何と、このコンビ、イギリスでは絶大な人気を博したらしく、他のギリアット作品や別な映画でも同じ設定で、登場してくるらしい。その全部を見てみたいものだ。

渡米後の、性倒錯プンプンのヒッチコックとは違う、イギリスらしさをも楽しめる逸品。

余談雑談 2012年2月11日
先立ての入院前のこと。 父の命日に、去年に引き続き、元社員がたったひとり、手土産を持ってやって来た。その時、自分はいなかったのだが、母は、未だに義理堅く焼香に来てくれるのは彼だけだ、とまた感激していた。自分としては、独居老人である母親を気に