お盆休みモードの東京。行きつけの飲食店の多くも休みだ。
その前にでもと、レバ刺し騒動以降、静かになった店に行こうと、暑いさなか、40分ほどかけ、徒歩で向かった。
ところが、どうだ。何と店は臨時休業である。すると、近くの路地から、喪服姿の女将さんが出てきた。実家の義姉さんの葬儀で、山形へこれから向かうという。「何となく、今日、アンタが来ると思った。連絡すれば良かったかしらね」と仰った。
自分も何度か訪れて、お世話になった。今年の四月、店主催の「山形ツアー」で行ったときに、お会いしたのが最後。確かに、調子が良くないとの話は聞いていた。
近くの駅へ向かう女将さんを見送り、さて、どうするかと日陰に移動した。何と、今度はその店の娘と出くわした。やはり喪服姿だ。娘は、「今日はゴメンね、でも、明日は営業するから」と笑った。何とも、忙しい母娘だ。
安く汚い下町の酒場。それでも、覚悟してたとは言え、翌日には営業である。地元の職工に限らず、ネットで調べて来る客をも魅了する底力なのだろう。
ふと、その店の御主人がなくった時を思い出した。あのときも同じだった。
「暫くの間、休業します」の張り紙。後で聞いたが、オヤジさんの場合は、突然であったと。口下手だが、心優しき職人であった。
あるときなど、手書きメニューにあった『とんかつ』を注文したら、「キミには出せないな。最後の一枚が小さすぎるや」と言い、「カツ丼にしなよ」と言うような人だった。
大通りに戻ると、暮れ始めた空に最長電波塔が見えた。日暮れ前の空に浮かぶ姿を見ながら、途方に暮れた。
暑いし、近所に店はない。こんなときは、レバ刺でも食べて精を付けたいと思ったのは、己のレベルの低さゆえだろうな。