スタッフ
監督:イヴ・アレグレ
原作:フィリップ・サン・ジル
脚本:ジャック・シギュール、イヴ・アレグレ
撮影:アンリ・アルカン
音楽:ポール・ミスラギ
キャスト
ペラン / ジェラール・フィリップ
ミシェリーヌ / ミシュエル・コルドー
バイイ / ジェラール・ウーリィ
バスキエ / ジャン・ジャック・レコー
医師 / シェール・フランソワ
ジーノ / ウンベルト・スパダーノ
店主 / オリヴィエ・ウスーノ
アリ / モハメッド・ジアニ
オデット / ヴァレリア・モリコーニ
日本公開: 1956年
製作国: 仏伊 ル・トリダン作品
配給: 東和
あらすじとコメント
ダムが絡む山岳モノで繋げた。ただし、アクションではなく、ダム建設に賭ける人間たちの重厚なドラマで、中々、渋い作品。
フランス、モターヌ。イタリアとの国境近く、海抜2000メートルの山岳地帯に建設中の「オソワ」ダム。そこは山奥で、下界とは隔離された場所であった。工期も長く、予算の関係もあり、建設従事者たちは休みもなく、賃上げもない状況で、日々、重労働に従事していた。
そんな中、ダム本体と導水路双方の現場を忙しく行き来している<設計士ペラン(ジェラール・フィリップ)は、転落事故による死亡で欠員がでたために、やっと仕事の口を見つけたアラブ人アリ(モハメッド・ジアニ)と知り合う。
激励するペランだが、自分の体調に異変を感じ・・・
フランス映画にしては珍しいセミ・ドキュメンタリー・タッチの佳作。
壮大なパノラマが拡がる山岳地帯。様々な国籍の男たちが低賃金下で命を賭け、重労働のダム建設に従事する。
楽しみは、たまの休みに下の町まで降りていくことぐらいで、後は食堂兼酒保で、日々の憂さを晴らすだけである。
しかも工期が遅れると、賃上げもないまま、残業が続く。当然、労働者たちに鬱憤が溜まっていく。それを緩和する役目を担うのが主人公の設計士。
それこそ、彼ら以上に馬車馬のごとく働き詰めである。だから、現場の人間たちからは絶大なる信頼が寄せられているのだ。そして、どこか「ダム完成」に、取り憑かれている男でもある。
自分の健康状態もギリギリのところまで来ているのを知っているし、現場の看護師も彼に恋していて、職業上、体調の異変にも気付いている。
そんな彼女に恋をする現場監督。
隔離された閉鎖的な世界であるから、人間関係も様々である。食堂を営むのはナポリ人家族だし、労働者もイタリア、アラブなど、宗教も、生き様も違う人間ばかりである。
当然、軋轢も起きるし、友情も育まれる。無理が祟って職場を去らざるを得ない男や、母の葬式のために、暫く振りに下界へ降りていく男。
そんな彼を励まそうと金もないくせに見送りに駅まで付いていこうとする仲間たちなど、閉鎖的だからこそ、共有する価値観と絶望感。
しかし、そんな彼らからすれば、何よりも現場を知らないくせに、経費と工期のことだけを、遥かパリから命令してくる経営陣には、全員が苛立っている。
製作された時代を考えれば、労働者たちが、やがて一丸となり、ストライキなどを起こして、環境改善のために闘争し、勝利していくのがメインとなる社会主義万歳映画なのかと思った。
ところが、さにあらず。映画は、黙々と誰に肩入れするでもなく、それぞれの問題を抱えたまま、淡々と工事が進むに連れ、起きてくる諸問題を解決して行くというセミ・ドキュメンタリー・タッチで進行していくのだ。
広々と美しくも自然の驚異を感じさせるパノラマを見事に映しだすワイド・スクリーン。
一方で、冬の到来と共に際立ってくる寒さや暗い坑道での重作業など、メリハリが利き、飽きることはない。
主人公は設計技師であるが、あくまで、その他多勢のキャストのひとりという描かれ方。
当時、二枚目で人気絶大であったジェラール・フィリップは、本作までは、彼の色男ぶりを際立たせるために、不必要とも思えるアップなどを多用し、女性客の心理をくすぐる演出が多かったが、本作では、そんなあざとい手法はない。
しかし、だからこそ、本作では、彼は単なる二枚目の色男ではなく、実に手堅く、上手い演技者として認知できるのだ。
どこか淡々としながら、飽きることなく進行させるイヴ・アレグレ監督の手腕にも感じ入った。
幾らでも劇的に演出できることを敢えて普通に進める。しかし、その中に、常に『死と隣り合わせ』と感じさせる息苦しさは、フランス映画らしからぬタッチであるが、妙に、心に響く作品である。