スタッフ
監督:エドワード・ドミトリク
製作:エドワード・ドミトリク
脚本:ラナルド・マクドゥーガル
撮影:フランツ・ブレナー
音楽:ダニエル・アンフィテアトロフ
キャスト
ザカリー・テラー / スペンサー・トレーシー
クリス・テラー / ロバート・ワグナー
マリー / クレア・トレヴァー
インド人の娘 / アンナ・カシュフィ
シモンヌ / バーバラ・ダロー
ウベラッチ牧師 / ウィリアム・ディマレスト
ソランジ / E・G・マーシャル
リヴィアル / リチャード・アーレン
ジョセフ / ハリー・タウンズ
日本公開: 1956年
製作国: アメリカ パラマウント作品
配給: パラマウント
あらすじとコメント
今回も広大で荘厳な山岳地帯という大自然を背景にした作品。超難関の雪山に臨む、兄弟のそれぞれの立場が及ぼして行く人間の欲望と尊厳を描く作品。
スイス、アルプスの麓。羊飼いをして何とか生計をたてるテラー(スペンサー・トレーシー)は、定職にも付かず、時には盗みまで働き、平然としている弟のクリス(ロバート・ワグナー)に、頭を悩ませていた。
そんなある日、近くにそびえる山の頂上付近にインドの旅客機が墜落したとのニュースを得る。すぐに航空関係者たちが村にやって来た。上空からの捜索によると、機はほぼ全損で生存者もいない模様とのことであった。それでも救援隊を組織し、頂上へ向かおうとする関係者たち。
かつて、そこに登頂した過去があるテラーに同行の依頼が来るが、固辞。それは、その山頂に挑戦中、案内していた人間を死なせてしまっていたという苦い経験があり、自身も大怪我をしていたからだ。それ以降、決して彼は山に挑戦しようとはしなかった。
仕方なく、関係者たちは彼の友人に依頼し、山へと向かった。しかし、翌日、友人が死亡したことを聞く。塞ぎ込むテラーに、弟がある提案をして来た。
二人だけで山に登って、持ち主を亡くした金品を持ち帰ろう・・・
20歳も年の離れた兄弟が決死行を繰り広げる冒険ドラマ。
年が離れている所為もあり、父親のような心持で接する兄。そんな主人公を恋慕する昔馴染みの女性や牧師がいて、どこか世捨て人のような風体だが、信望は厚い。
方や、弟は閉塞感に苛まれる田舎での貧しい生活から逃げだしたいと心底願っている。
映画は、この解りやすい二名が反発したり、協力しながら山頂を目指すストーリィへとシフトしていく。
ひとりでも墜落現場を目指すと言う世間知らずの若き弟の言動は理解できるが、人望厚い兄が、どうして付き合うことにするのかという場面は、やや説明不足だと感じた。
パンフレットのあらすじ欄を読むと、原作にはでてくるのであろう、心理的描写や、互いのそれなりに詳しい過去が書いてあり、理解できるが、映画では端折り過ぎて流石の名優トレーシーといえども、合点が行かないと感じた。
それ以降も合成による場面が多く、広大なロケでの遠景など完全に、トレーシーではないと解ってしまうのが残念である。
一説によると、彼は高所恐怖症であったという説もあるが、ならば、本作のオファーを断ったのではないかとも推察できる。
ただし、そのあたりに眼を瞑り、描き切れなかった背景等を想像して見ていければ、映画としては、上手くまとまっていると言えよう。
山にアタックするあたりから、ほぼ主役二人だけの進行であり、お互いが協力し合わないと死に直結する。それでいながら、水と油ほど違う兄弟の性格が、互いにどれほどのプレッシャーを強いることになり、わだかまりを深めるのか、というサスペンスフルな場面が続く。
当然、兄が弟を裏切ることはないであろうと容易に想像が付くが、年齢からして体力的限界もある。しかも、かつて登頂したことがあるのは、若い頃だし、しかも夏場で、雪の積もった冬は初めて。
そういったサスペンスを上手く喚起させつつ、合成場面が多いとはいえ、手堅く盛り上げるドミトリク演出により、飽きずに見ていける。
実年齢が、映画の設定以上だと完全に感じさせるトレーシーは、アクション系の場面などモタつくものの、抑えた場面は、流石に上手いと感じさせる。弟を演じた若きロバート・ワグナーも、実際の性格がそのままではないかと思わせるほど適役。
ただし、アルプスを背景にしながら、いかにものハリウッド俳優たちの出演であるので、違和感を覚えるのは到仕方ないとしても、それなりに、バランスの取れた映画ではある。