スタッフ
監督:レスリー・ノーマン
製作:マイケル・バルコン
脚本:ウォルフ・マンコウィッツ
撮影:アーウィン・ヒリヤード
音楽:スタンリー・ブラック
キャスト
ミッチャム軍曹 / リチャード・トッド
ジョンストン伍長 / リチャード・ハリス
パンフォース一等兵 / ローレンス・ハーヴェイ
マクレイシュ上等兵 / ロナルド・フレイザー
ウィティカー一等兵 / デヴィッド・マッカラム
スミス一等兵 / ジョン・メイロン
エヴァンス一等兵 / ジョン・リース
トージョー / ケンジ・タカギ
日本軍狙撃手 / アンソニー・チン
日本公開: 1966年
製作国: イギリス アソシエイテッド・ブリティッシュ作品
配給: NIC
あらすじとコメント
今回も、軍隊が舞台の異色ドラマ。敵は、単純に外部にいるだけではなく、仲間内の個人的脆弱さが、他の隊員に及ぼす危険を描く佳作。
第二次大戦下、インドシナの密林地帯。日本軍への攪乱作戦のため音響装置設置に従事していた、7名のパトロール隊がいた。
隊長はミッチャム軍曹(リチャード・トッド)、副官はジョンストン伍長(リチャード・ハリス)。だが以前、ミッチャムは、自分が指揮していた偵察隊を全滅させ、降格させられた過去を持つ。そんな彼の指揮能力の低さに、ジョンストンは露骨な不信感を示していた。当然、軍曹も自分の名誉回復のために獅子奮迅していた。
隊員は他に、『兵営の弁護士』とあだ名され、権力に対して憎悪心剥きだしのパンフォース(ローレンス・ハーヴェイ)、単調な上にしつこい説教魔マクレイシュ(ロナルド・フレイザー)、気弱な青年の通信兵ウイティカー(デヴィッド・マッカラム)らだ。しかも日本軍の前に劣勢ゆえ、皆、精神的に不安定で、士気も低下していた。
そんな中、休息していた一隊は、混線した無線機から日本語が聞こえたことで、近くに敵が入ることを悟った。
その直後、一人の日本兵が現れて・・・
小品ながら、戦争が個人に及ぼす憎悪と信頼を描く人間ドラマ。
管理能力を問われ、降格させられた指揮官。当然、部下たちから信頼はされていない上、劣勢ゆえに個人のエゴをストレートにだす兵士までいる始末。誰もが嫌々ながら軍務に就いていて、一刻も早く帰国したいと露骨に願っている。
そんな中、英語をまったく理解しない日本兵一名を捕虜にする。
気の荒い副官は、すぐに殺せばいいと言うが、ジュネーヴ条約通りに保護すると制止する指揮官。
そのあたりから、登場人物それぞれのキャラクターが露骨になって来るという筋運び。
とはいっても、休憩のために入った小屋での捕虜への対応を巡る、まるで裁判のような会話劇の態を成してくるのだが。
英軍兵たちの表情や手振り身振りで、自分が殺されるのか、どうなのかを不安そうにオドオドと見るしかない中年の日本兵が切ない。
そこで鍵を握るのは『兵営の弁護士』である。それまでストレスから、矢鱈と他人へ食って掛かっていた男が、急にヒューマニズム溢れる人間へと変貌する。そして、逆の本性を露呈する人間もいる。
しかし戦後の戦争裁判ではない。映画の設定は、大戦初期で日本軍が優勢だった時期である。一人だけ日本兵を捕虜にしたものの、当然、他に彼が所属する部隊が控えているのだ。つまり、単なる裁判劇だけに終始しないと観る側は想像が付く。
最終的には、日本が負けるのは映画を見ている人間は全員が知っている歴史上の事実である。しかし、本作は、別角度から描こうとしていく。
その視点が大変に興味深いのだ。
英兵たちは捕虜に日本軍の総指揮官である「東条」というあだ名をつける。そして、自分らより下等民族である黄色人種だと蔑むくせに、いざとなれば、誰も、不安に怯える小さな中年男の目を見ると殺せないのだ。
やがて、言葉が通じないものの「人間同士」として、何となく理解し合えると思わせる展開になる。これは日本人では「あうんの呼吸」だが、イギリス人からは「奇妙な友情」という、微妙に違うスタンスが浮かび上がる。
果たして、国同士の戦争では『敵』だが、『人間』としては通じ合うものが存在するのか。
物語は、更に二転三転していく。そこで人間の持つ別な本性が露わになったり、激しい戦闘シーンも登場してくる。
本作の主題は『負け戦』である。それは、イギリス軍なのか、日本軍なのか。
ただし「戦争」である。後味はどちらにしても、決して良いものではない。しかも、戦争は更なる『負のスパイラル』を産んでいくという皮肉。
低予算の小品ながら、敵が「日本軍」であることの思い入れが、個人的に複雑に交錯する作品だが、当時としては珍しい異色作と位置付けされよう。