ベラクルスの男 – LE RAPACE(1967年)

メルマガ会員限定

画像を表示するにはメルマガでお知らせしたパスワードを入力してください。

スタッフ

監督: ジョゼ・ジョヴァンニ
原作: ジョン・カリック
脚本: ジョゼ・ジョヴァンニ
撮影: ピエール・プティ
音楽: フランソワ・ド・ルーベ

キャスト

禿鷹 / リノ・ヴァンチュラ
ファレス / ザヴィア・マルク
カミート / ローザ・フルマン
アウロラ / アウロラ・クラヴェル
ボスコ / エンリケ・ルセロ
カルヴェス / アウグスト・ヴェネディゴ
ルイス / カルロス・ロペス・フィゲロア
大統領 / ファメジオ・デ・ベルマル


日本公開: 1968年
製作国: フランス ヴァロリア・フィルム作品
配給: 東和


あらすじとコメント

引き続き孤独なプロの殺し屋を描くフランス製フィルム・ノワール作品。演じるのは大好きな俳優の筆頭格リノ・ヴァンチュラ。

1938年      メキシコ。ヴェラクルス港に皮袋ひとつをぶら下げて、船でやって来た禿鷹(リノ・ヴァンチュラ)は、ニンニクをひと束だけ買うと、トラックや貨車を乗り継いで南下した。とある国の国境で警備兵の目を誤魔化し、密入国を果たすと、目的地の田舎町の旅籠に入った。中で待っていたのはカルヴェス(アウグスト・ヴェネディコ)と、あどけなさが残る青年ファレス(ザヴィア・マルク)たちだ。

禿鷹はカルヴェスから詳細を告げられた。「大統領を暗殺してくれ」俺は護衛のいない人物を殺せとしか聞いてない、と答える禿鷹。するとカルヴェスは、旅籠の向かいにある豪邸に住む元舞台女優の愛人に会いに来るので、邸内では護衛は付かないと笑った。更に、同席している青年ファレスは初代大統領の孫で、今回、君と行動を共にし、彼が殺したことにしてくれと言われる。そうすれば彼は革命の英雄として、すぐに大統領になれるからだと。

渋々、同意する禿鷹。大統領は明後日にやってくるというので、それまでファレスと二人で待つことになるが・・・

たったひとり異国で仕事をこなす孤高の殺し屋を描くフィルム・ノワールの佳作。

くたびれたソフト帽を被り、よれよれのジャケットに汚れたコットンのズボン。そんな着の身着のまま、手荷物ひとつで長旅を経てやってくる中年男。

映画の冒頭から哀愁が漂う。シャープな体の切れはないが、いぶし銀でヴェテランの余裕がある。ニンニクを生で食べ、汗まみれの服からは強い体臭を感じさせる。

そんな男を待ち受けるのは高級そうなスーツを着た中年男と真新しい白いシャツとズボン姿の青年。青年は革命を成功させようと野心に満ち、理想に燃えている。その上、依頼主の腹心や道案内の男は、ヨレヨレの格好をしてスペイン語も話せない彼を『よそ者』と蔑む。

序盤から主役の誰からも疎外された孤独感が際立って行く。しかし、男は動じない。それは彼がこれまで生きてきた中で、何度も味わった仕打ちだろうから。逆に、男には汚れた格好や生ニンニクによる臭気によって、他人を寄せ付けない排他感さえ漂う。

自分には主義主張はない。そこに、単に金で動くプロであるという気概が垣間見える。

そんな主役を演じるリノ・ヴァンチュラが滅茶苦茶カッコ良い。彼以外では考えられない設定だ。

それもそのはず。監督であるジョゼ・ジョヴァンニは自身で脚本も書く所為もあり、先に俳優ありきだと言っている。だから、本作はヴァンチュラのために書かれた話なのである。ゆえに、お互いの信頼の上に成り立った作品でもあるのだ。そして彼以外のキャストは、全員がメキシコの俳優たち。

当然、ヴァンチュラに掛かる期待は大きい。結果、彼は見事にその重責を果たしたといえよう。

言葉も通じず、文化風習のまったく違う異国におけるプロの生き様。それは、どこに行っても動じない確固たる自分があるということ。

まして、相手は見ず知らずの国の政治的野心を持った連中だ。ギャングたちとは違い、もっと腹黒く義理人情よりも優先させるものがある。

誰を信用し、誰を見切るのか。もしくは全員が敵になりうるのか。共通しているのは、それぞれが主人公同様、優先する『自分』を持っているということ。

だが、そういった男たちと違う描かれ方をするのが、二人の女だ。ひとりは大統領の愛人の元女優。もうひとりは旅籠の女。

始めの方こそ、二人ともハスッパで嫌な女として描かれるが、やがて、男たちとの差が浮かび上がっていく。まさに、そんな女たちだけが主人公の真の理解者であるかのように。

この点にいささかセンチメンタルな弱点も感じるが、それでも、異国情緒溢れるノワール映画の佳作であることに変わりはない。

余談雑談 2009年1月10日
新年早々、酒場巡りの日々。 今年は、新しい店が一軒増えた。昨年の11月に見つけた荒川区三河島にある、もつ焼き屋である。 そこでの帰りがけ、店の老夫婦から「今年もよろしくお願いします」と頭を下げられ、お釣りと共に、七味唐辛子の小さな缶を貰った