スタッフ
監督:内田けんじ
製作:酒匂暢彦、加藤嘉一、原田知明 他
脚本:内田けんじ
撮影:柴崎幸三
音楽:羽岡佳
キャスト
神野 / 大泉洋
北沢 / 佐々木蔵之介
木村 / 堺雅人
美紀 / 常盤貴子
久美子 / 田畑智子
郷田 / 山本圭
片岡 / 伊武雅刀
大黒 / 北見敏之
江藤 / 大石吾郎
甲斐 / ムロ ツヨシ
製作国: 日本 シネバザール作品
配給: クロックワークス
あらすじとコメント
雑誌など、各方面で昨年のベストテンが公表されている。とはいっても、ここで洋邦別に10作品ずつ、挙げる気はない。それでも、今のところ昨年公開された邦画のベスト・ワン作品。
東京、稲毛市近郊のとある団地。有名企業に勤める木村(堺雅人)は、朝食を済ますと出産間近の美紀(常盤貴子)が、新しい靴を買ってくれたことにささやかな幸せを感じ、部屋をでた。
その団地の入口で、中学からの親友で、中学教師をしている神野(大泉洋)が、購入したばかりのポルシェの手入れをしていた。二人は挨拶を交わすと、木村は半ば無理矢理、車を借りてでかけた。
その日の午後、新宿歌舞伎町の『大人のおもちゃ屋』店長兼探偵の北沢(佐々木蔵之介)の元へ、木村の上司が訪ねて来る。何と木村が無断欠勤し、あらぬ場所で女性と密会していたので探してくれとの依頼だった。
貰った資料から、木村が生まれ育った場所でずっと人生を送っていると踏んだ北沢は、疎遠気味の同窓生に成りすまし、彼が卒業した中学校を訪ねた。
ところが、応対したのが神野だったことから・・・
アイディアと脚本勝利の妙味ある作品。
キャストは、主役一人で客が呼べるという大スターでなく、実力派だが、地味目が多い。しかも、漫画やケータイ小説のような原作はなく、オリジナル作品。
それでも、やっと日本映画でも、この手の練られた作品が登場してきたかと微笑んだ。
さり気ない日常の朝。まるで昔のホーム・コメディのようなベタな展開でスタートする。ところが、すぐに一人が失踪し、厭世観から人生を斜に構えたような探偵が登場し、サスペンス的な進行へと変調する。
まァ、これもありがちと言えばありがちではある。
当然、こちらは先読みをしつつ見ていく。いかにも、いわくありげな台詞や小道具に注目し、人物たちの相関図や、どういった位置関係なのかを推理する。逆に、送り手は、観客がそういう先読みや深読みをして見ているだろうことを意識して作っている。せめぎ合いというか、腹の探り合いである。
本作の監督は内田けんじ。前作の「運命じゃない人」(2004)から注目していた。そのときも本作同様、脚本と監督を兼ね、実に興味深い作品ではあったが、予算の関係だろうがキャストや照明などに金がかけられず、まるで昔の自主制作の8ミリ映画のようなティストであった。
ところが、それが妙にハマったのだ。何故なら、自分が大学時代に映画製作サークルに所属し、仲間たちと数々の8ミリ映画を作った雰囲気と見事に重なったからだ。
機材も少なく、スタッフ、キャストも素人。肝心なのは卓越したアイディアと、カット割りなど、展開の妙味に賭けるしかないと思っていた時期。前作に、粗削りながら同じティストを感じ、懐かしさに鳥肌が立った記憶がある。
そんな大学時代の体験は、確実に今の鑑賞スタイルに影響している。数千本の映画を鑑賞し続け、映画ライターなり評論家になる人間は多い。確かに冷静に分析分類し、見えないものを見抜く蓄積能力があってこそ、その存在理由がある。一方で、映画に興味を持ち、製作に回る人間もいる。それこそ、写らない場面にどれほどの労力を費やしたかを知っている。
しかし、映画とは完成した作品が勝負であり、命である。
所詮、学生の自主制作であるが、少しは製作に携わったことがあり、何より映画が大好きな自分は、紆余曲折の末、念願の映画ライターになった。
自ら脚本を書き、演出をして、自身のイメージを具象化する。表現者としての理想のひとつであろう。しかも、たったひとりで取り組む物書きと違い、多勢の人間の助けが必要である。
なので、多分に嫉妬が入っているが、本作は前作以上に感じ入ったのだ。キャストやセットなど予算をかけ、更に練り込まれた脚本ゆえだ。久々に、見終わった後に、もう一度、すぐに見たいと感じさせたのである。
それに本作では、内田監督に大好きなビリー・ワイルダーの匂いを感じた。コメディを基調にしながら、サスペンスを展開させる。かといって、ヒッチコックとも違う。
脚本のセンス、小道具の使い方から作劇の妙などで、ワイルダー作品が大好きな人間は、評論家や製作サイドまで実に多い。
例えば、自他共にワイルダー・ファンと認める三谷幸喜を筆頭に、そういった人間たちが、一体、この映画を見て、何と言うかを是非、尋いてみたい。
ただ、こういった作劇法は、何度も通用しない。今後、内田作品だと、観る側もそれなりに構えて見るし、類似点を探そうとするだろうから。
次の一手はどう来るか。次回作が非常に楽しみな作家である。