パワープレイ – POWER PLAY(1978年)

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スタッフ

監督: マーティン・バーク
製作: クリストファー・ダルトン
脚本: マーティン・バーク
撮影: オザマ・ラヴィ
音楽: ケン・ソーン

キャスト

ゼラー / ピーター・オトゥール
ナリマン / デヴィッド・へミングス
ブレア / ドナルド・プレゼンス
ルソー教授 / バリー・モース
カサイ / ジョン・グラニック
ルソー夫人 / マルチェラ・サンタマン
ベリエントス / ジョージ・トゥリアトス
ミン / オーガスト・シェレンバーグ
アラムコ / ゲーリー・レイニック

日本公開: 1979年
製作国: イギリス、カナダ ランク作品
配給: ワールド映画


あらすじとコメント

今回もピーター・オトゥールが軍人役を演じた作品。知る人ぞ知るポリティカル・フィクションの秀作。

ヨーロッパ某国。長期に渡る大統領の独裁政権の下、汚職疑惑のある経済大臣が誘拐され、殺害される事件が起きる。秘密警察長官ブレア(ドナルド・プレゼンス)は、国内の反体制分子の犯行と特定し、容疑者たちを拘束した。

そんな折、腐敗しきった政府の行き過ぎた行動に不信感を抱いていたナリマン大佐(デヴィッド・ヘミングス)の元へ、恩師である陸軍大学の教授ルソーが尋ねてきて、一緒に政府を転覆させないかと誘ってくる。しかし、不満があるとはいえ、クーデターには賛同しかねると辞退する大佐。

その夜、友人夫婦が大佐の家へやって来て、娘が反乱分子と間違われ拘束されたので、何とか釈放してもらえないかと懇願してきた。すぐに彼女へ面会しに行くと、何と、娘は本心から現政権への不満を口にし、大佐も同類だと切り捨てた。動揺するナリマン。その後、気を取り直し、ブレアと交渉して釈放を約束させるが、何とブレアは彼女を殺害してしまう。

遂に意を決したナリマンはルソーに参加を決意したと告げる。既に数人が計画に関わっていたが、首都制圧には戦車部隊が必要不可欠だと意見が一致する。それには戦車部隊を指揮するゼラー大佐(ピーター・オトゥール)が必要だと。

しかし、このゼラーという男の評判は・・・

クーデターが男たちを、どう変えていくかを描くクールな秀作。

どの国でも現政権に不満を持つ人間は多い。そこには人それぞれの価値観や信念が存在するが、通常、国民がその意思表示をするのは選挙である。しかし、そんな遠回しな行動以外で政権交代を夢見る。実際に武器を所有する軍関係者は軍事クーデターが早道だと考え、実行する国は多い。

しかも、そういった行動にでるのはトップの将軍でなく、将校がほとんどだ。日本での2.26事件然り、北アフリカのリビアでは、実際に統治しているのは将軍でなく、カダフィ「大佐」である。

本作でも、立案者は大学教授であるが、実際に行動を起こすのは将校たちだ。冒頭で思慮深い将校がクーデターへの参加を打診され断るが、遂に彼が決起を決意する過程から、映画は一気に変貌していく。

彼は教授に参加の条件として『犯罪者の特赦』と『半年後の民主的総選挙』を掲げる。このときは理想に燃える好漢だ。しかし、政治とはそんな簡単ではない。

そして実際にクーデターを起こす場合、仲間が必要である。しかも、事前に情報が洩れれば即刻逮捕、反乱罪で死刑が待っている。いかに秘密裡に会合を繰り返し、仲間を募っていくか。

映画はその細かい過程を、実にスリリングに描写していく。威圧感と火力的見地から戦車隊が必要不可欠だとか、空港を押さえるのに空挺部隊が必要だと議論される。逆に、もし、それらの部隊が政府側に付けば、成功は覚束なくなる。

また、近隣諸国との国境警備はどうするのか。そして、そういった部隊の司令官で自分たちと一緒に決起してくれるのは誰なのだろうか。実際に参加を表明するもの、参加してくれると思っていた仲間の意外な反応など、刻一刻と変わって行く状況。

しかも政府側の秘密警察長官は、軍の一部に不穏な動きがあるのを察知して、探りを入れてくる。徐々に参加者が増えるものの、プレッシャーに耐え切れず酒に溺れる者、女性との不倫に走る者など、決して一枚岩ではない部分もでてくる。更には理想に燃えての参加だった人間も、やがて、権力を夢見るようになる。

地味な俳優が多いが、それが妙なリアル感を生みだす。中でも警察長官を演じたドナルド・プレゼンスの、神経質そうで、どこか、おどおどしているが底冷えのする冷血さを滲ませる演技は秀逸。

理想に燃える優しそうな将校から、やがて顔付きが変わっていく首謀格を演じるデヴィッド・へミングスや、何を考えているのか解らないピーター・オトゥールなど、脇に至るまで見事な演技陣だ。

心理戦がメインの息詰まる駆け引きから、やがて、迫力あるアクション・シーンへと展開していく妙味。カナダ映画ながら、イギリス系らしいセミ・ドキュメンタリー・タッチで起承転結を意識し、メリハリの効いた素直な作劇に酔っていると、やがて、衝撃を受けることになる。

結局、歴史は繰り返しざるを得ないと痛感させられ、理想すら、凶器になりえると教えてくれる傑作。

余談雑談 2009年1月24日
アメリカで初の黒人大統領が誕生した。「白人」対「黒人」という勝負でもあったので、『白黒』がはっきりしたとも言えるのだろうか。しかし、これからが真の勝負だとも言われる。 かく言う自分は『勝負事』が大の苦手。弱いこともあるし、事前に「七人の侍」