スタッフ
監督: リチャード・レスター
製作: デヴィッド・V・ピッカー
脚本: リチャード・デコッカー
撮影: ゲーリー・フィッシャー
音楽: ケン・ソーン
キャスト
ファロン中佐 / リチャード・ハリス
ブルーネル船長 / オマー・シャリフ
ブラドック / デヴィッド・ヘミングス
マクレオド警視 / アンソニー・ホプキンス
バーバラ / シャーリー・ナイト
ポーター / イアン・ホルム
コリガン / クリフトン・ジェームス
クレイン余興係 / ロイ・キニア
バックランド / フレディ・ジョーンズ
日本公開: 1975年
製作国: イギリス R・レスター・フィルム作品
配給: ユナイト
あらすじとコメント
前回紹介した「将軍たちの夜」で、立場上、上層部に強くでられないジレンマを抱えた役を演じたオマー・シャリフ。今回も、中途半端なポジションで困惑する役だ。
イギリス、サザンプトン港。25,000トンの豪華客船ブリタニック号が北大西洋へ向けて出航した。ブルーネル船長(オマー・シャリフ)は、先の天候が不安定なことが心配だった。
そんな折、客船を所有する船会社に一本の電話が入る。「ブリタニック号に7個の爆弾を仕掛けた。身代金は50万ポ ンドだ」声の主は、インドの犠牲者の神『ジャガーノート』と名乗った。すぐ船に連絡が入り、爆弾と思しき7個のドラム缶が発見されるが、その内のひとつがジャガーノートの言った通り爆発。単なる脅しではない。しかも、爆破期限まで22時間しかない。
すぐさま政府、海軍、警察へ連絡が入り、合同捜査本部が立ち上がった。政府は要求に応じず、犯人逮捕と爆弾処理班による爆弾解体を決定。逮捕の指揮を執るのはブリタニック号に妻子が乗船しているマックレオド警視(アンソニー・ホプキンス)。爆弾処理に選ばれたのはファロン中佐(リチャード・ハリス)率いる七人の精鋭部隊だった。
だが、折り悪くブリタニック号は嵐に遭遇。ヘリコプターによる直接乗船が不可能になってしまい・・・
神経戦的駆け引きをメインに描くサスペンス映画の逸品。
公開当時、パニック映画が全盛。「ポセイドン・アドベンチャー」(1972)が大ヒットを記録したので、豪華客船が舞台となる本作も同じように売られた。
しかし、本作は、ハリウッド製のパニック映画とは一線を画している。何故なら、純然たるイギリス映画ゆえ、派手なキャストと大掛かりなスペクタクル・シーンで観客の度肝を抜く作劇と違うから。
地上で犯人捜査に当たる警察、爆弾解体に当たる処理班にすべてを賭けるしかない捜査本部の閉塞感や、船客たちの人間ドラマという、実に地味な展開を見せる。しかし、抜群に面白いと感じ入った。
それは、イギリス映画特有のセミ・ドキュメンタリー・タッチを生かしつつ、ドラマチックな展開を見せるという、個人的に大好きな『バルコン・タッチ』の再来と感じたからだ。
しかも監督がビートルズ主演の「ビートルズがやって来る ヤア!ヤア!ヤア!」(1963)、「HELP!四人はアイドル」(1965)や、不思議なミュージカル「ローマで起こった奇妙な出来事」(1966)など、一風変わった映画を撮り続けて来たリチャード・レスターだからだ。
そんなレスター演出は、冒頭の出航シーンから発揮されて絶妙。普通だったら、楽しい船旅になるぞという派手な出航シーンを写し、やがて乗客たちが驚天動地のパニック状態になるための違いを際立たせる手法が王道だが、監督はそんなことはしない。
出航を見送るブラス・バンドは、いかにも仕事でやってます的無表情。それなりの数の見送り客がいるが何か微妙な間隔が開き、紙テープも派手さがないし、しかも天気はどんよりとした曇り空で、薄ら寒さを感じる。見送られる乗客たちも同様に、浮かれている人間は少ない。
出航後は、余興係が客たちを楽しませようと孤軍奮闘するが、寒々しく無視される。しかも、夜は悪天候になり、客のほとんどが船酔いという状況。
妙にリアルで醒めている。そこに持ってきて爆弾騒ぎへと繋がっていく。
しかし、後半から作劇は一変し、正攻法で実にスリリングな手法で押してくる。
命からがら乗船した処理班が対峙する爆弾は7個。各々全員がひとつの爆弾の前に陣取り、隊長の無線による指示で解体を進めるという展開になる。つまり解体の実況中継をしながら、次の動作を指示していくのだ。そこで間違えば、ドカン。自分が死ねば、次は誰々の順番で解体を続けよ、という命令が緊張感を高めていく。
どこか奇妙なコメディ的前半とまったく異質な後半という、その見事に緩急のついた手腕に見入ってしまった。
余談だが、TVドラマ「古畑任三郎」シリーズで本作のラストのパクリが使われた回がある。犯人役を挙げると解ってしまう人もいるかもしれないので、役者名は伏せるが、唯一、あのクールな古畑が犯人を引っ叩いた回である。もしかして、脚本の三谷幸喜はその犯人役が嫌いだったのかなと推察し笑ってしまった。
本作は、パニック映画特有の派手さはないが、これぞイギリス映画という作劇に酔える、実にメリハリの効いた作品である。