スタッフ
監督:中江裕司
製作:竹中功、佐々木史郎
脚本:中江裕司、中江素子
撮影:高間賢治
音楽:磯田健一郎
キャスト
東金城奈々子 / 西田尚美
東金城ナビィ / 平良とみ
東金城恵達 / 登川誠仁
福之助 / 村上淳
サンラー / 平良進
ケンジ / 津波信一
麗子 / 兼嶋麗子
本家の長老 / 嘉手刈林昌
アブジャーマー男 / 山里勇吉
オコーナー / アシュレイ・マックアイザック
製作国: 日本 イエス・ビジョンズ作品
配給: 東京テアトル
あらすじとコメント
このところ旅行先として大人気の沖縄。昨今はそこを舞台にした映画も多く作られるようになった。そんな中の一本で、沖縄の離島を舞台にした音楽映画。
沖縄、粟国島。東京での生活に疲れ、OLを辞めて故郷の島に帰ってくることにした奈々子(西田尚美)。
彼女は乗ってきた小さなフェリーに同船していたダンディな老人サンラー(平良進)が気になった。彼は上陸後も、たったひとり徒歩で島の中へと入っていき、また、本土から来た風来坊の福之助(村上淳)も当てどなく、歩きだした。方や奈々子は祖父の恵達(登川誠仁)と祖母ナビィ(平良とみ)の出迎えを受け、久し振りに実家へ戻った。
翌日、祖父が偶然、知り合った福之助を連れて帰宅してきた。何でも彼が奈々子のことが好きらしいからと飄々とした口調で言い、空いている小屋に住まわすと言いだす。あきれる菜々子だが、中々どうして、彼女の方も満更でもない様子だ。
だが、そんな奈々子の前を行ったり来たりする祖母ナビィの様子が妙に、おかしい。
どうやら同じ船で来たサンラーが関係しているらしく・・・
離島独特の風習や人間模様を不思議なティストを持って描く作品。
陽射しの強さを痛感する青い空。珊瑚礁に囲まれた世界屈指の透明度を誇る海。人間は大らかでのんびりとしている。一般的に本土の人間が抱く『沖縄』のイメージだろうか。
本作もそういった雄大な自然や、のどかで心広い島民たちの心情が垣間見られる。しかし、逆に閉鎖的な独自の文化風習を維持し、それに逆らうものは排除するという厳しい一面を併せ持つのだ。
そういった良い面ばかりでない離島の生活を描写していく作品。
主人公は若気の至りで東京に就職したものの、逆に息切れして戻ってきた独身女性。一度離れてみて初めて感じた孤独を開放するべく、逃げ帰ってきた。しかし、そこでは、田舎独特の避けざる風習をも受け入れなければならない。だから影響力のある実力者が、島を結ぶフェリーの操舵士が結婚相手に最適で、一緒になればお互いの家族は繁栄するとか言うのである。
それを鵜呑みにしているフェリー運転手の青年。しかし、主人公は一度、生まれ故郷を離れているので、そうは言われても何かが違うと感じている。少し傍観者としての視点である。
方や、島から一切出ることなく一生を終えるであろう祖父母。特に祖母は、船酔いすると言って、今まで一度も島からでたことがない。年下の旦那である祖父は、いかにも大らかで、他人に優しい。いつも三線(三味線に似た沖縄の楽器)を抱え、唄いながら人生を歩んできた老人である。
そこに本土から来た風来坊の青年が絡んでくる。ここに隔離されたような、閉鎖的な島に、他の血が入ってくるという異文化交流が生まれる。
本作は既に島の女性と結婚し、永住するアイルランド人のバイオリニストも登場する。奥さんはオペラ歌手だ。そういった様々な血が入ってきて変わりざるを得ない時代性を描写していく。
暗い因習をストレートに描くのではなく、様々な音楽に乗せて楽しく見せていく作劇。「ひょっこりひょうたん島」から、沖縄民謡、オペラから、アイルランド独自のケルト民謡までが、ごちゃまぜになり進行していく。
役者は主役の西田尚美以外は、ほぼ沖縄の人間たちが演じている。独自の方言を話し、独特のオーラがある。ゆえに演技者としては、聞き取りづらい台詞廻しや、見事なる名演技とはいかない。しかし、主だった人物たちは本当の唄い手だったり、奏者であるので見事なる存在感がある。
実際に全員が吹替えなどでなく、全部を自身で演奏している。そこには長年の経験に裏打ちされた人生の年輪が見事に浮かび上がり、物語の進行と相まって感情を揺さぶってくる。
本作以降、祖母役の平良とみは、沖縄を舞台にした映画ではなくてはならない役者になったが、特に、祖父役の登川誠仁の飄々として、人生の総てを大らかに受け入れる存在はお見事。
ただし、作劇法がいささかセオリー通りでないし、粗っぽいリズム感もあり、どこか学生の自主制作映画のような印象を受けるかもしれない。
それでも、沖縄に興味がある人間には、明るい面ばかりでないと教えてくれる佳作。