マブイの旅   平成14年(2002年)

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スタッフ

監督:出間康成
製作:出間康成
脚本:出間康成、笠松ゆみ、大谷直樹
撮影:鍋島淳裕
音楽:高橋Caz

キャスト

福間洋平 / 山田辰夫
金城文海 / 富樫真
娼館女将 / 絵沢萌子
平良琉登 / 山本浩貴
ニコ / 久米伸明
鮫島 / 四万堂亘
娼婦晴子 / 仲田正江
ヤン / 森雅晴
娼婦アケミ / 後藤悦子
電気店店員 / 金沢朱音

製作国: 日本 ワイ・クリエイティブ作品
配給: フラックス・トーン


あらすじとコメント

東京から弾きだされた中年男。行き着いたのは沖縄。そこはリゾートであり、リゾートでない沖縄。男はそこに何を見るのか。

沖縄、北谷あたり。秋葉原の電気店で部長代理をしていた福間(山田辰夫)は、会社をリストラされ、妻子にも逃げられた挙句、退職金全部を持って沖縄にやって来た。

改装中の小さなリゾート・ホテルに篭り、生きるあてもなく、酒浸りで、毎日、娼婦を買う日々を続ける彼のお気に入りは文海(富樫真)だ。

彼女も、美容師を夢見て東京へ行ったが、挫折して帰って来ていた女で、酒好きにして、かつ、好戦的で、ストレートに感情をぶつける女でもあった。一方の福間は、喧嘩を買う勇気も、気力もない。

時には、別な娼婦を呼んではみるが、厭世的でアル中の彼は女性を抱くことは出来ない。それでも毎日、誰かしら娼館から女を呼び続ける。

ある日、娼館のポン引きに連れて行かれたアンダーグラウンドのファイト・ショーで、キック・ボクサーの平良(山本浩貴)に熱い視線を送る文海を見かけ・・・

人間の切ない心情を不思議なタッチで描く作品。

人生に絶望し、ありったけの金を使い果たそうと逃避してきた中年男。どこかに死にたいという願望があるが、自ら命を絶つことはできない。まるで『魂の抜け殻』のような男。

タイトルの「マブイ」とは、沖縄の方言で「魂」。しかも、使い方は『落とす』と言う。「失う」や「無くす」でなく、『落とす』。

まさに、それを体現している男だ。そんな彼に対等に接する娼婦。だが、彼女は「マブイ」を落としてはいない。そこに不思議な関係が浮かび上がってくる。

更には娼婦が心惹かれている、ヤクザとつるむキック・ボクサーも絡んでくる。彼は自分の「マブイ」を探し、もがいている設定だ。他の登場人物たちにも、当然、それぞれの「マブイ」がある。

ストーリィはやがて、死にたくても死ねない男が、周りの人間を様々に巻き込んでいく展開となる。それが、どこかウエットなハード・ボイルド・タッチで進行していく。

敢えて、ボソボソと話させるので時折、聞き取りづらい台詞。見るものを画面に集中させようとする手法かと感じた。その手法に、ふと黒沢明のイメージを嗅いだ。出間監督がわざと意識しているのかは解らないが、自分としては、見ていくに連れ、その印象を強くした。

うがった見方かもしれないが、主人公が、ふらりと異国へ来て、地元の人間たちに強い影響を与えるのは「用心棒」(1962)の主人公、桑畑三十郎に重なる。ただし、飄々として、凄腕の持主ではない。しかし、彼がやって来たことでそこにいる人間たちそれぞれの人生が、否が応でも色濃く影響を受けていく。

また、本作の主人公が厭世観に溢れ、自棄的な役柄設定は、やはり黒沢の「酔いどれ天使」(1948)の三船敏郎にダブる。そんな彼に、自分と同じ匂いを感じるからこそ、正面切って対峙する医師を演じた志村喬は、娼婦役の富樫真か。

その娼婦役の富樫真が素晴しい。演技自体は、決して上手くはないが、すれっからしのミューズ(女神)の雰囲気を充分に醸しだしている。

そんな彼女とは好対照に、人生に受身であるがゆえに、逆に、それが能動的作用をしてしまう主役の山田辰夫も、ヘンな透明感があり、適役。

また、日活ロマンポルノで名を馳せた絵沢萌子が、場末の匂い溢れる娼館の女将として存在感ある演技を示しているのも、往年のファンには嬉しい。

晴れて暑いイメージが強い沖縄を舞台にしながら、どこか寒さを感じさせるカメラ・ワーク。

ヤクザや闇ファイトが登場するので、当然、綺麗ごとで話は進行しない。そして、それゆえの『痛さ』と『血』を強く感じさせる、ドライさと妙なウエット感が入り混じった不思議なティストで進行する冷たさが、心に染み渡る。切なさが胸を突くのに素直に涙が溢れない不可思議な感覚。

何とも言えない万感さが伴う作風に自分の「マブイ」が、映画に吸い取られていく感覚に陥った。

余談雑談 2009年7月20日
今回の都々逸。夏も本番であるし、夏の代名詞のような花が登場するものにしてみた。 「分けりゃ二た根の朝顔なれど 一つにからんで花が咲く」 成る程、『からんで』とか『つるんで』という表現がピタリとくる花である。しかも、どこか淫靡な感じもする。