悲しき天使“THOSE WERE THE DAYS”   平成18年(2006年)

メルマガ会員限定

画像を表示するにはメルマガでお知らせしたパスワードを入力してください。

スタッフ

監督:大森一樹
製作:神野智
脚本:大森一樹
撮影:林淳一郎
音楽:山路敦

キャスト

河野薫 / 高岡早紀
沖島啓介 / 岸部一徳
松下那美 / 山本未来
関川慎二 / 筒井道隆
関川敦子 / 河合美智子
伊東俊一 / 松岡俊介
松下泰造 / 峰岸徹
木ノ下剛士 / 松重豊
松下和夫 / 細山田隆人
小島ユカリ / 野波麻帆

製作国: 日本 ツインズ・ジャパン作品
配給: ファーストウッド・エンタテイメント


あらすじとコメント

殺人事件が絡むドラマ。昨今では、テレビの2時間サスペンスなどでばかり描かれ、映画ではあまり扱われないジャンルになった。そんな中で、地味ながらも手堅く仕上がった作品。

東京、府中。とある晩、多摩川沿いで中年男性の射殺死体が発見され、現場に沖島刑事(岸部一徳)と河野刑事(高岡早紀)が到着。

すぐに身元が割れ、近くに住む長男を訪ねてきたことが判明する。二人はすぐさま、長男のアパートに急行した。そこで長男を発見し確保。だが、供述から、真犯人は姉の那美(山本未来)と判明する。しかも犯行に使われ、彼女が所持している拳銃には、弾丸が残っていることを知る。

翌朝、二人は上司に相談もせず、見切り発車で大分の別府に向った。証言から、那美が元恋人の関川(筒井康隆)を訪ねると踏んだからだ。

そんな関川が入り婿に入った温泉旅館前の宿屋の二階で、二人は来るかどうかも知れない那美を待つことにするが・・・

人間の価値観の相違を浮き彫りにさせるドラマ。

ストーリィを読んで、あれ、と思われる方もいるだろうか。

本作は、表立って謳ってはいないが、松本清張原作、野村芳太郎監督による秀作「張込み」(1958)のリメイクと思われる。

主役の二人の刑事が、駅で落ち合い、列車を乗り継いで九州に向うという進行までそっくり。違うのは、時代性を考慮してヴェテランの刑事とコンビを組むのが若い女性刑事という点。

張込みがメインである以上、派手なアクションなどのストーリィ進行はない。

更には、当然、各々が人生の問題を抱え、メインの刑事たちにもそれぞれのバック・ボーンがある。ということは、察しの通り、人間ドラマが主軸である。まるで、どこかテレビの2時間サスペンス的でもある。

しかし、絶妙な演出による間合いや、役者たちの見事な演技に引き込まれた。

三十路手間で結婚を申し込まれている女刑事。彼女は思い込みが激しく、そのくせ、どこか抜けている。相対するヴェテラン刑事は、いかにもやる気のない役人的な印象のセクハラ親父。

確かに、目新しさはない。しかし、この二人の迷コンビ振りが絶妙におかしい。

しかも、張込みをするのが、静かな温泉街。ヴェテラン刑事は、張込み中の旅館の仲居に、不倫のカップルに見えませんかね、とニヤついて問う。そんな上司に毅然とした態度で臨もうとする主人公の女刑事。

しかし、彼女は同性である真犯人の心情が理解できない。というよりも、女としての成熟度がまったく足りないのだ。当然、そのことが物語を左右していくし、また、登場する他の女性たちの心の闇をも理解できないのだ。

ほんの少し、コメディ的要素を散りばめ、サスペンスを盛上げていくヴェテランの大森監督の手腕は安心して見て行けるし、主役二人から、脇に至るまで気の効いた配役は重厚さはないが、こちらにすんなりと入り込んでくる。

特に、錆付いたオヤジのようだが、人間として、ただ、漫然と生きてきたわけではないという円熟味を漂わす岸部一徳と、女としてはまだまだ若いが、どこか諦念し、忸怩たる思いを秘める古風さを醸しだす犯人役の山本未来は絶品。

女性の描き方などに現代性を感じるが、作品全体は古風な日本映画という、アンバランスさを感じさせるティスト。

2時間ドラマのような内容だが、やはりテレビとは違う、完全なる映画として昇華している。

特にラストなどは、完全にクロード・ルルーシェを意識した画面構成に、思わずニヤリとしてしまった。

そういった点に『映画監督』としての大森一樹の意地を見た。

余談雑談 2009年11月1日
今回の都々逸。 「追われる仕事 仕事のメモに やっぱり逢う日が書いてある」 これは『現代都々逸』と呼ばれた類のものでる。確かに、江戸や明治時代では「メモ」は使わなかったであろう。 忙しく仕事に追われる日々。そんな中、好きな相手と会う日が書い