この前の晩のこと。
上野で用を済ませ、アメ横近くを歩いていたら、ふと、とある酒場が目についた。
妙に『昭和レトロ』を意識した店なので、違和感があったのだが、値段の安さに釣られて入ってみた。
先客は、何やら訳知り顔の中年男と若い男。スーツ姿でもないのでサラリーマンの上司と部下ではないし、近くの職工仲間という風情でもない。それでいて二人とも、小奇麗な格好なのだ。
で、その二人の近くに坐ると、すぐに解った。「酒場巡り」を趣味としている同好の士だった。成る程、昨今は「路地裏」「酒場」「ホルモン」が人気だ。
で、矢鱈と『下町』とか、『粋』とかを連発している。中年の方が、俺の夢は、跡継ぎが居らず、やむなく閉店した店を買取り、以前と同じ値段でやることだと言うと、すかさず、若い方が「粋ですね」と答えた。
確かに、志は立派だ。しかし、一応、下町に育った自分からすると、そういう事は『粋』とは言わずに、『酔狂』だと教わった記憶がある。
『昭和レトロ』を意識した店と、『昭和』そのものの酒場は、似て非なる店と同じことかもしれぬ、と。